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燃え上る復讐の炎

 サリタンが生を受けて6ヵ月が経った。

 最近では首がしっかりしてきて、サリタンも自分でよちよち歩きや、不安定ながらも多少なら座れるようになってきている。

 そんなサリタンの興味は、未だにヒーローに向けられていた。まるで腰ぎんちゃくのようについて回っているのだ。

 そんな様子をみて、やはり両親は多少の寂しさを感じながらも、おじいちゃん子なのだろうと考え、自分を納得させている。

 付きまとわれているヒーロー自身は、ついてくる孫娘が可愛くて可愛くて、喜ぶばかりだった。



 そんなある日のこと、ヒーローが毎日の日課の鍛錬を終え、自宅へ向かって歩いていると、数人の子供たちが駆け寄ってきた。

 「ヒーロー様ー!」

 騒々しい足音と少年の声が背後から近づいてくると共に、砂埃が立って宙を舞う。

 呼び止められたヒーローは足を止めて振り返った。

 「うん?なんだね?」

 バタバタバタ、と足音が止んで、最後の砂埃を、吹いた風が攫ってゆく。

 代表なのか、一人の元気そうな少年が、瞳をきらきらと輝かせながら尊敬の意を含んだ眼差しで、意気込みを表すように両手で作った握りこぶしを胸の前に出しながら、元気よく口を開いた。

 「ヒーロー様ヒーロー様! 僕達も強くなりたいんです! 剣の振り方教えてください!」

 「「「お願いします!!」」」

 子供たちの大声を聞いて、周囲に人だかりができる。一気に注目を浴びる形となってしまい、ヒーローは内心困っていた。

 一人で決められることではない。

 「うーん」

 唸り声を上げていると、子供たちが同じ言葉を繰り返し、元気な声で叫ぶ。

 ヒーローは、重い口を開いた。

 「わし一人では決められないから、君たちは自分の親御さんから許可証をもらって来てくれんかの?紙にじゃな、親御さんに剣の振り方教えてもらってもいいよーとな、一筆書いてもらいたいんだが。それがないと教えられないのう。子供達が書いたんじゃだめだぞ?すぐ分かるからな。いいね?」

 「えー」

 「そんなぁ~」

 がっかりしたような声が次々と上がり、内心安堵する。

 怪我でもさせたら大変だ。

 ヒーローは念押しするように再度繰り返し伝え、身を翻し、その場を後にしたのだった。


 「ただいまー」

 「ああ、お義父様、おかえりなさい」

 靴を脱いで、木製の床に足を乗せると、ギシ、と軋んで音が響いた。声をかけた主を探すために視線を走らせると、息子夫婦部屋から少し顔を覗かせてこっちを見ていたリーサの瞳とそれが合う。

 ヒーローはそっと歩いて行って、リーサの隣りに腰を下ろした。

 「帰宅途中で子供達が剣を教えてくれと言って来てのう、対応に困ってしまったよ」

 ハハハ、と苦笑いしながら話すヒーローだったが、リーサの目の前で床に転がっていたサリタンが首を回して見つめてきているのを知ると、にっこり笑って声をかける。

 「サーちゃん、起きたのかね~。おはよう」

 それに対して無言でじぃと見つめてきたが、もう慣れたもので全く気にならない。

 「この子は本当にお義父様がすきですよねー」

 「え?そうかなぁ」

 照れくさそうに頬を掻くヒーローとそれを微笑ましそうに見つめるリーサの傍らで、サリタンが赤ん坊には似つかわしくない怪訝な表情で己の祖父にあたる人間を見据えていたことに、二人は気づかなかった。


 同日の夕方、リビングで大人3人が椅子に腰を下ろし、談話しているところへ訪問者が現れた。

 玄関の扉をノックされる音と同時に、外からヒーローを呼ぶ声が聞こえる。

 「ヒーロー様! ヒーロー様!」

 何事かと思いつつリーサは出迎えるために腰を上げ玄関の扉を開けると、数人の少年達が口々にお邪魔します、と言いながら素早く上がりこんできて、ヒーローのもとへ一直線に駆け寄る。

 「ヒーロー様! 言われたとおりに父ちゃんと母ちゃんに話して許可もらってきました!」

 少年達は次々に同じようなことを言うと、さっと紙を差し出してくる。

 確認するためにそれらを受け取って、綴ってある黒い文字を読んでいくと、確かに親達が書いているであろう字体だ。

 少し唸って逡巡してから、ヒーローは決意する。

 己が言ったことは、責任を持たねばならない。

 「わかった。今日は遅いから明日の昼からな。家の前に14時集合。ただし、騒がずに静かに待っておること。……いいね?」

 やったぁ!!と嬉しそうな歓声が上がる中で、感謝の言葉も飛び交う。

 それらを聞いているうちに自然に笑顔になって子供達を見つめる大人達。


 が、そこに似つかわしくない表情で陰からこっそり見ている姿があった。


 いや、睨み付けているといっても過言ではない、その視線。


 サリタンが今も眠っているはずの夫婦部屋から、寝転がっているはずの当人が、向けているのである。


 一心に、祖父であるヒーローを。


 そして、僅かに口を開く。


 「お前だったか……勇者……!」


 小声でぼっそりと呟くように言われたその言葉は、子供達の声に紛れ誰にも聞かれることはなく、空気に溶けた。



 その瞬間。



 ただならぬ気配を敏感に感じ取ったヒーローは素早く窓の外を見た。

 そこには何の変哲もない、夕焼け空が広がっているだけである。


 だが、しかし。


 紛れもなく、今の気配は。


 「魔王……?」


 声を出されずに動かされた唇は、確かにそう告げていたのであった。


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