熱視線
「ふぅ~」
「なぁなぁ親父。そろそろ……気分直したら?」
鍛錬後、自室とも呼べる部屋で腰を下ろし休んでいると、背後からそう声がかかる。
息子のバッシュだ。
「わしは別に……」
「いい加減、辛気臭いよ?」
ズバッと切り込まれる。
「サリタンもさぁ、別に異状ないんだし……まぁ最近ちょっと変だけど」
「変……だと?」
―――お。食いついた。
内心ほくそ笑みながら、顔には出さずに続ける。
「うん。ぼーっとしてるかと思ったら、途端に泣き出すし。笑い出すならわかるんだけど。いや、それも別の意味で怖いけど。まぁなんか……とりあえず、変なんだよ。様子、みてみれば? あれからずっと会ってないでしょ」
「う……む……」
俯きがちに、何かを思案しているようなヒーローの姿を見て、バッシュはとりあえず安心する。
「ま、考えといてよ」
そう言い残して、バッシュは部屋を後にした。
残されたヒーローは、そっと振り返って、解放されている夫婦部屋に視線を投げる。
「……」
そっと立ち上がって、足音を立てないようにゆっくりと歩を進め、こっそり、扉で半分体を隠しつつ覗き込む。
確かに、息子が言ったように、サリタンは寝転がったままで外の風景をじっと見ているように見えた。
ヒーローはそっと、近づいて気づいているのか気づいていないのかわからないサリタンの傍らに腰を下ろし、無意識に右手で、サリタンの柔らかい頬を撫でる。
「サーちゃん」
呼ばれたのが分かったのか、頬に触れたからなのかサリタンは僅かに首を回してヒーローと視線を合わせた。
すると、サリタンはなぜかじーっと見つめてくる。
サリタンのパッチリした瞳から発せられる熱視線に、ヒーローは嬉しさのあまり頬をちょぴっと赤く染めた。
「さ、サーちゃん……?」
じぃー。
ちょっと照れくさく思いながらも、ヒーローは無言で見つめてくるサリタンを、同じく無言で見つめ返したのだった。
それからというもの、サリタンは気が付けばヒーローを目で追っていることが多くなった。
ぼーっと空を眺めているよりはいいような気もするのだが。
親としては寂しさを覚るが、息子としては、サリタンの注目を浴びているヒーローが、前のように壁の花とならない様子を見ると、嬉しく感じる。なんとも複雑な心境ではあった。
「この子、急に元気になったわよね? ……元気になったって言っていいのかわからないけど」
「うーん。不思議な光景だね~」
サリタンの側に立ち並んで、サリタンが見つめている視線を追うと、ヒーローがリビングを挟んだ向かいの部屋で、本を読んでいる姿が見える。
なにがそんなに気になるのかわからないが、最近ずっとこんな様子だ。
子育てといものはなかなか難しいものだな、と夫婦そろって思うのだった。




