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最後の戦い3

 向かい風を体に受け、寒さを感じた。同時に浮遊感も。

 閉じていた瞼を開けると、動いている地面が飛び込んできた。胸部に誰かの腕が回されている。

 誘拐犯はサリタンを抱えながら走っているらしく、宙でぶらぁんと揺れている手足が、地に向けてまっすぐ伸びていた。

 そして、次に襲ってくるのは腹の痛みだった。

 その痛みで脳裏に甦って来る光景。


 助手と言っていたアオに、声を掛けられた。

 子供が怪我しているからと言って。

 村人には家に入るよう声を掛けて回った直後だったし、兵士や祖父は魔物と戦っていた。その最中に子供が怪我しているなどと言って邪魔することは、到底できない。

 アオを、信用はしていなかった。だからといって、怪我の子供がいるというのを、放っておくことも今の自分には出来そうもなかったのだ。

 警戒はしていたのだが。

 咄嗟に判断が遅れてしまい、腹に衝撃を受けた。

 そして、気が付くとこの状態だ。


 サリタンは己を抱えている誘拐犯の姿を確認するために、顔を上げた。

 予想通り、アオだった。

 周囲に視線をやれば、森の中を駆け抜けているとすぐに解った。

 だが、どこに向かっているのかはわからない。魔物がらみなのは確かだろう。

 強制的に揺さぶられている影響で腹に痛みが走る。

 それに顔を顰めて耐え凌ぎながら、口を開いた。

 「おい! 止まれ!」

 向かい風が目を刺し、しっかりと開けていられない。

 サリタンの耳には、アオの息遣いと土を踏む足音、草木の葉擦れ、風を切る音が大きく聞こえている。

 鬱陶しいくらいに。

 数秒間が空き、答えないつもりかと考えだしたところで、上から言葉が降ってきた。

 「もう目が覚めたのか。人間の体は、加減が難しくてなぁ。殺しちゃいけねえから手加減したんだがし過ぎたみたいだな。あと、止まんねえよ。連れてこいって言われたんだ」

 連れてこい、ということは誰かの指示に従っているということだ。

 おそらく、戦いになるに違いないだろう。

 だが。

 子供の姿では分が悪い。

 得物がないことが、一層拍車をかけていた。

 己の身に危険が迫りつつあることを今更実感して、体が緊張で固くなり心臓の鼓動が加速する。

 素早くアオの体に視線を走らせて武器になりそうなものを探るが、使えそうなものは何も身に着けていないように見えた。

 この状況を打開できるすべはないか、頭をフル回転させるが良いアイデアは浮かんでこない。代わりに焦りばかりが増していく。

 脳裏に、りあこと、フウノの姿が浮かびあがり、『彼女』が無事である事に安堵し、共に生きられないかもしれない事に不安が募る。


 そうして考えあぐねている間にアオが突然足を止めた。

 結局いい打開策を見出せないままでサリタンのフル回転していた思考が止まり、意識が正面へと自然に向けられる。

 アオがゆっくりとした足取りで歩き出すと共に、サリタンは周囲に視線を走らせる。


 数メートル先に、小屋があった。

 周囲は木々で囲まれているが、小屋を中心に半径5メートルくらいだろうか。草木一本生えておらず、視界がとてもよかった。

 小屋自体は、窓はあるが曇って汚れており中は見えない。家全体が小汚く、軒先には蜘蛛の巣がかかっている。

 もう何年も人が住んでいない、そう思わせるような有様だった。

 方角が違うのだろう。その小屋に入るためにあるはずの扉は、見渡す限りでは目に映らなかった。 


 「魔王様」

 アオから発せられた言葉に、サリタンは目を瞠る。

 素早く顔を上げて、己を抱えてここまで連れて来た人物を見た。

 サリタンの視線に気づいているのかいないのか、アオは真正面を見続けていたが。


 やがて、アオの言葉に呼応したかのように足音が響いた。

 砂利を踏む足音。

 サリタンは視線をアオから正面に戻し、何も逃すまいとするかのように目を細め、見据えた。


 ―――魔王……だと……?

 そんなばかな、と思う反面、それを即座に打ち消す己がいる。

 そう、おかしいことではない。

 次代の魔王が存在するのは。

 だが、本来ならば代替わりは、現魔王を殺すことで起こる。

 魔王を倒したものが次代の魔王となる資格を得るのだ。

 前魔王のレグツェルガーデメディウスガルツェを殺したのは、ヒーローだ。

 人間ではあるが、魔王となれる才能と資格は、確かにある。

 本人がその道を選ぶかは別として。


 だが、知っている限りあの祖父がその道を選択するなどあり得ない。

 残る可能性は一つだけ。


 生き残っている魔物の誰かが、成り変わろうとしている、ということ。


 だが、成り変わるのも簡単にはいかない。

 力の誇示をしなければならないのだ。

 強いものが、魔王に成ることができる。

 そこまで考え、サリタンは突然気が付いた。


 そして、今まで気が付かなかった己に呆れる。


 そう。


 前魔王が倒され数十年経った間は、成り変わりを考えるものはいなかったのだろう。


 勇者が、生きているから。


 だが、最近事情が変わった。


 前魔王が転生したことにより。


 魔物達は、生まれ変わりのサリタンが、また魔王として君臨する事を視野に入れ、待機していたのだろう。


 だが、いざ目の前に現れたのは、力のない子供だった。


 まさに、うってつけの獲物だったのであろう。


 魔王の生まれ変わりの、力のない子供を殺すことで力を誇示し、代替わりをするには。



 卑怯で、下劣。



 脳裏に、医者を騙っていた魔物の姿が浮かんだ。



 遠目で、後姿しか見れなかったが、見覚えがある気がしてならない。



 「魔王様、連れて参りました」

 上から声が降って来て、サリタンの思考が断たれた。

 そうして意識を再度正面に向け、足音と同時にそれが姿を見せる。



 森の川辺で出会った、うさぎに似ている魔物が、そこに立っていた。


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