最後の戦い2
駆け出したサリタンの双眸に、数メートル先に顔を土気色にして目を見開き体を恐怖で震わせながら見守っている村の男が立っている姿が映る。そこまで急いで駆け寄りながら、勢いのよい声を飛ばす。
「何してるんだ! 早く家に入れ! 出てくるな!」
サリタンの声を聞いた途端その男は己の元に駆けてくる姿を見ると、はっとした様に一瞬体を震わせて、背後の我が家に飛び込むように姿を消した。
勢いよく扉が閉まる音を聞いた後、サリタンは今の立ち位置から一番距離が近い所に立っている村人の元へまた走っていき、一喝していく。
「ほら! あんたも! 子供が泣いてるぞ!」
子供、と聞いた母親は、放心して忘却していた母性が急に湧き立ち、隣りで手を繋いだまま恐怖で泣いている我が子を急いで抱きしめると飛ぶように家に入っていく。その背中に「もう出てくるな!」とサリタンは叫び声を投げたが、聞こえているかはわからない。
だが、魔物がのさばっていて己の命を危険にさらす外へは、きっと戻りはしないだろう。
駆ける足を止めずにその家を通り過ぎたサリタンはそうやって次々と声を掛けまわっていく。
サリタンが肩で荒い呼吸を繰り返しながら周囲に視線を走らせて状況を確認した時には、既に外に出ているのは魔物と王都の兵達、そしてヒーローと自分だけになっていた。
背中に流れる汗を気持ち悪く感じながら、こめかみを流れるそれを手の甲で拭う。
そして気づかれないように僅かだけ視線をフウノの家へと動かし、眼の端に捉えると一瞬だけ目を細めた後瞼をぎゅっと閉じ、再度開けると目線はヒーローの元へ向けていた。
―――りあ、出てくるなよ……!
声に出せない言葉を、心中で叫びながら。
「怯むな! 戦え!!」
己自身も魔物が振り下ろしてくる鋭い鉤爪と真剣で応戦しつつ隊長は激を飛ばす。その声で励まされた兵士達は、己の役目を全うすべく魔物に立ち向かって真剣を振り下ろす。
あちらこちらで、真剣と鉤爪がぶつかり合う度に、キィン!と高い音が鳴り響き大気を震わせる。時折双方の得物で傷ついた肌から人の鮮血や魔物の体液が宙を舞い、地面に染みを作っていた。
ヒーローも魔物の鉤爪に対し真剣で応戦していた。
ヒーローが身に纏っているのは服のみな為、兵士達と違って傷つきやすい状態ではあったが、培ってきた勘や経験、速さを駆使して傷一つ作ることなく魔物の攻撃をやり過ごし、振り下ろされる鉤爪を真剣の片面を利用して腕ごと跳ね返して隙を作り、胸部をがら空きにさせると、そこを一息に貫く。
魔物の胸から背中へと貫かれた真剣は、体液で濡れて鈍い光を放っていた。
一気に魔物の胸に埋めた真剣を引き抜く。
大地に重たい音を響かせながら背中から倒れた魔物から体液が滲み出て、真新しい染みが広がっていく。
その瞬間を狙った違う魔物の攻撃が横から飛んでくるが、ヒーローはそれも爪先を使い体を素早く回転させながら背中に回り込むことで避け、振り上げた真剣を左上から右下に駆けて勢いよく振り下ろした。
肉が切り裂かれたと同時に魔物は叫び声を上げながら崩れ落ち、身じろぎすらすることなく息絶える。
ヒーローが向けた背中に、二匹同時に魔物が襲い掛かってきたが身を屈めながら素早く片足を後ろに引き体を捻って振り返りざまに手首を回し、刃の位置を変えてそのまま勢いを殺さず剣を横に振って、腹を垂直に裂く。
肉が切れる感触が剣から伝わると同時に、魔物の体から放たれた体液が周囲に飛び散った。
ズシン、と砂埃りを立たせながら力なく倒れた二匹の魔物の体が、ヒーローの足元に転がる。
生死の確認も含め数秒落としていたその視線を、肩越しに振り返り数メートル離れた先で魔物と戦っている兵士らに向け状況を確認する。
目を細め冷静に観察していると、魔物が一匹足りないことに気が付いた。
どうやってか知らないが、医師に化けていたうさぎに似た、左目に眼帯をしている魔物だ。
なぜか、嫌な予感がする。
そういえば助手を騙っていた男はどこに行ったのかと視線を走らせるも、彼の姿はない。
―――魔物に殺されたのか、逃げたのか。
あるいは。
―――あれも人間を騙った魔物か。
突然、ヒーローの中に焦りが生まれた。
ヒーローは体ごと周囲に視線を走らせ隅から隅までを視察する。
だが、どんなに探しても、その双眸に捉えたい人物はいなかった。
己の、唯一の孫。
「謀られた……!!」
一度ならず、三度までも。
己の年甲斐のなさに、叫びたくなった。
遅くなってすみません。5枚と少ないですが一旦投稿します。




