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最後の戦い -開幕-

 兵を引き連れたヒーローは、医師専用の家の前に、隊長と肩を並べて立っていた。後ろには、二人を囲む様にして並んでいる兵士達がいる。キースは隊長の真後ろに立っていた。

 サリタンは少し離れたところから遠巻きに見守っている。

 村人達が離れたところから固唾を吞んで動向を見守っている雰囲気を敏感に感じ取りながら、ヒーローは扉へそっと手を伸ばした。

 そして、扉を叩く。

 数秒の後扉が軋んだ音を立て、助手のアオの手により開かれる。家の中に、自称医師のソラの姿が、その双眸に映った。

 彼は、ヒーロー達の方を向いて立っていた。

 突然の訪問にもかかわらず、焦った様子もなく微動だにせずただ、そこに立っている。

 扉を開けた助手のアオを見ると、隊長は眉を顰めて視線はそのままにヒーローに言葉で問う。

 「……この人は? どちらが医師だ?」

 その質問に、ヒーローの中で疑問が湧きあがった。

 確かめねばならない。

 ヒーローは重い口を開いた。

 「……王都から派遣された助手のアオさんと奥に立っている方が医師のソラさん……ですじゃ」

 その言葉を聞いて、隊長の片方の眉毛がピクリと僅かに動いた。

 そして、静かに話しかける。

 「アオさんとソラさんですかな。お伺いしたいことがあるので、少し時間を頂いてもよろしいですかな?」

 丁寧にそう言う隊長の言葉を聞き、アオは背後に立っているソラを振り返る。

 数秒の間、沈黙が広がったが、ソラは突然口角を上げた。

 そして、一言も喋らないままに歩き出して扉の前まで来ると、外に視線を走らせる。

 ソラが無抵抗で側まで寄って来たため、隊長とヒーローは三歩後ろに下がり、間を空けた。それによって、背後に並んでいた兵士達も一緒に下がる。

 ソラは一歩足を外へと踏み出した。後ろをアオが続き、二人が同時に外へ出て来て誰からもその姿が見えるようになる。

 固唾を吞んで見守る村人達の視線と重い雰囲気の中、隊長の正面にソラとアオが立った。数秒間、どちらも口を開かず、沈黙の時が流れる。

 そしてその沈黙を先に破ったのは、やはり隊長だった。

 「……王都から、派遣されたと聞きましたが。合っていますか?」

 「……そうだよ」

 実質は尋問と大差ないのだが、隊長の声色と訊き方が穏やかな為か、ソラは口角を上げたまま落ち着いた様子でそう答えた。

 「……しかし、あなた方が王都から派遣されたという記録はないのです。王都には大層記憶力のよい男がおりましてね。その者が、どこの町や村に、医師の誰を派遣するかを決めているのですが」

 そこで一旦言葉を切った隊長は、ソラとアオの表情の変化を見極めようと眼を細め、見据える。

 だが、数秒経ってもこの二人の男には焦りの表情や不安など、一切浮かんでこなかった。

 感情を隠すのが上手いのか、あるいは。

 

 

 隠す気がないのか。



 「……この村にもともと派遣されていたのはマクレガーという名の医師です。が、ここの村人によるとマクレガー医師は王都へ出かけ、そしてあなた方は、マクレガー医師の代わりにここへ来たと言われたそうですが。王都へマクレガー医師が辿り着くことはなく、その前に亡くなっていました。……どういうことか、説明していただきましょうか?」

 威厳をもって最後まで言い切った隊長を前に、やはりソラは微笑を湛えたまま微動だにしない。

 その反応の薄さに、隊長を含め周囲の兵士がは腹立たしく思い始めた時。

 ソラの口から、言葉が漏れた。

 「くっくくくくあはははははははははは!!!」

 嘲笑ともとれそうな笑い声が響き渡り、予想外のソラの反応に兵士達の表情に戸惑いのそれが表れる。

 何がそんなに可笑しいのか、狂ったように嗤うその奇怪なソラを止めようとする者は、誰もいなかった。

 一頻り嗤ったあと、ソラは視線を正面に立っている隊長に向ける。そして、左手を胸元へやると、服の裾を掴んだ。

 不気味な笑みをこぼし、ソラは口を開く。

 「あの人間はなぁ…………我が殺したんだ!」

 そう叫ぶと同時に胸元の裾を掴んでいた左手を引っ張りながら跳躍し、ソラは右手に生えた鉤爪を一人の兵士の首元に向かって斜めに振り下ろした。

 「ぐああああああああ!!」

 咄嗟の事で避ける事も出来ずまともに首元を切り裂かれた兵士は、血の飛沫を散らばせながら後ろに倒れ、尻餅をつくと同時に、無意識に首元に手をやり、出血を抑える。

 兵士の首元を切り裂いた後着地したソラだったはずのモノは、背後を振り返り、長い口を引き上げ鋭い牙を覗かせて声をださずに嗤った。

 その姿を見た村人達と、兵士の数人に戦慄が走る。

 次の瞬間、人の姿を解いたソレはまた、次のターゲットにしている兵士の元へ行くために空高く跳躍した。

 

 

 「いかん!! 逃げずに応戦しろ!!」

 我に返った隊長の、怒鳴り声にも近い一喝が響き渡って、綺麗に整列していたのが嘘のようにばらけ恐怖に怯えて腰が引き、逃げ惑う兵士達の思考を、切り替えさせる。

 それとほぼ同時に脳裏に魔物の発する声が轟いだ。

 ―――ヤレ!!

 

 

 声が響いた瞬間、ヒーローは周囲に視線を走らせたあと素早くサリタンに視線を移す。

 「サリタン」

 声が掛けられて素早くヒーローに視線を合わせる。

 「皆に家に入って出るなと言いまわってくれ」

 その言葉を聞いた後無言で走り出したサリタンを見て、ヒーローも次々と森から姿を現した魔物達へと走って行った。


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