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謎の男

 その日の朝も、雲一つない晴天だった。

 朝早く起床して、ヒーローと共に出かける。

 帰ってきたら、朝食を食べて、一休み。

 そして、昼までフウノと一緒に過ごした。


 その後別れ、昼食を食べに帰宅する。

 終わって一時間置いた後は、素振りの時間。


 家の前に集まった子供達の中にまじると、ヒーローを先頭に数メートル離れたところまで移動する。そして、ヒーローの掛け声と共に素振りが始まる。

 途中からヒーローの声は聞こえなくなり、子供達だけの気合の入った声が辺りに響く。

 その様子を見守る親達。

 それが、いつもの日常。

 


 

 今日は、違った。




 子供達の元気な声が一斉に響く中、王都へ続く道の方から、重い足音が何重にも重なって向かって来ていた。砂埃を舞い散らせながら歩いてくる。

 その、重たい足音、異様な気配を漂わせる雰囲気に誰が初めに気づいたのか。

 素振りに集中していて気づくのに遅れたサリタンとヒーローが兵士達に視線を向けた時、彼等は数メートル先にまで距離を縮めていた。

 彼らの姿を目にしたヒーローは視線はそのままに、以前したように手の平を地面に向けたまま胸まで上げ、子供達の威勢の良い掛け声と素振りを中止させる。

 子供達が一斉に止めると、ヒーローは解散の意を声にして伝える。生徒達はやってきた兵士達に好奇心の視線を向けながらも、離れがたいようにゆっくりとした動作で散っていった。

 突然現れた兵士達の存在が、気にならないほうがおかしい。


 目の前に立ち並んでいる兵士達を前にしても、ヒーローは落ち着いた様子を見せていた。サリタンは祖父の横に並んだまま、ヒーローと同じように視線を彼等に向けていた。

 

 先頭に立っていた一人の兵士が一歩足を前に出し進み出ると、ヒーローと向き合う。

 そして、口を開いた。

 「この村の責任者は誰かな?」

 「責任者……ですか?そういう、決まったものはおりませぬ」

 「……そうですか」

 そう言うなり重苦しい溜め息が相手から漏れ、ヒーローは怪訝な顔を向けた。

 その時。

 一人の兵士が一歩前に出た。

 「あの……隊長。オイラが話してもよろしいでしょうか」

 三人の視線が一斉に向けられたが、その兵士は気後れすることなく立っている。そして、その兵士の姿をまともに見たヒーローとサリタンは目を軽く見開いた。

 思わず、サリタンの口から言葉が漏れた。

 「あ……」

 その言葉に、隊長に話しかけた若い兵士、キースはサリタンに一瞥をくれたが、視線をすぐ戻す。

 その様子を見ていた隊長が今度は口を開いた。

 「……知り合いか?」

 「はい。以前報告した子供です」

 それで合点がいったのか、隊長は、「ああ」と声を漏らす。

 「狼に襲われてたというお嬢ちゃんか。そうか、君か」

 サリタンをその目で捉えながら呟くように言った隊長は、その視線を隣りのヒーローへ向けた。

 「ということは、あなたがヒーローさん、ですかな?」

 「はい、そうですじゃ」

 「それでは、あなたにお訊きすることにしましょう。……マクレガー医師はもちろんご存じですな?」

 「もちろんですじゃ」

 「では、今彼がどこにいらっしゃるかはご存じですかな?」

 その言葉を聞いて、ヒーローはサリタンと顔を見合わせた。そして、視線を再度隊長と呼ばれている者へ戻す。

 「……王都、に残っていると聞きましたが……」

 それを聞いた途端、今まで直立不動だった兵士達がざわめき始め、隊長と呼ばれている男は眉を顰めた。キースは目を瞠っている。

 「誰にです?」

 キースがそう問いかけてくる。

 その声色には僅かに焦りが含まれていた。

 

 異様な雰囲気になってきた。


 誰もが納得しておらず、不審に思っているのを、全身で感じる。


 妙な雰囲気が漂う中、ヒーローは口を開いた。

 「王都から新しく医師として派遣されてきた、ソラという名の男性にですが……」

 その言葉を聞いた兵士達は、動きを止めた。

 キースも驚愕の表情を作ったまま時が止まっているかのように身動き一つさえせず、沈黙がその場を完全に支配した。

 「……していない」

 数秒後、静寂を切り裂き止まった時を動かしたのは、隊長の一言。

 だが、意味が解らず、ヒーローは問う。

 「なんと?」

 「……王都は、派遣していない。その男は……偽物だ」

 驚愕の事実に、ヒーローは目を瞠った。

 聞き間違いかと己の耳を疑う。

 「今……なんと……?」

 「そのソラとかいう男は、偽物だ」

 繰り返し言われるその言葉に、周囲に野次馬を作っていた村人達も押し黙り、固まる。

 頭が混乱していた。

 しかし、その場で唯一冷静だった者が居た。

 「なあ」

 ヒーローは、隣りに立っている孫がそう言葉を発したのを耳にし、視線を落とす。その場にいた誰もが、一斉に小さい女の子へ視線を向けた。

 「マクレガー……さんは?」

 当然と言えば当然の質問だったが、答えるのは、ためらわれた。

 こんな、大勢の村人達に囲まれる中で、子供もまじっているのに、真実を告げてもいいのかどうか。

 そんな迷いを見透かしたかのように。

 サリタンは口を開いた。

 「もう、いないんだね」

 直球に言うことをすれすれに避けて出した言葉。

 だが、どういう意味かは、想像するに難くない言葉。

 隊長は、表に出そうになる感情を抑えて、答えた。

 「……ああ」

 「……では、ソラと名乗ったあの男は……」

 黙っていたヒーローが静かに呟いた言葉を耳にすると、隊長は無意識に握っていた拳に力を入れ、サリタンを見下ろした為俯きがちになっていた顔を上げ、ヒーローを見据える。

 「何者かは解らんが……このままにはしておけない。家に案内してもらえますかな」

 「分かりました」

 そう言って、歩き出したヒーローの後を、隊長とキースを先頭に次々についていく。そんな光景を、村人達は何も言わず静かに佇み、見守っていた。


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