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城下町

 翌日。

 空は晴れており、陽光が大地に降り注いでいる。寒い時期にはありがたい太陽の光を全身で浴び、ぬくもりを分けてもらいながら、ヒーロー達は歩いていた。早朝に家を出た際人通りがなかった道にも、昼過ぎとなった今ではちらほらと人が歩いている。

 そうして暫く歩き続ければ、目前に城下町が見えてきた。ここでも町に入る前に門番が立っており、不審者と思われるものは足を止められる仕組みとなっている。

 ヒーロー達は門番の前を素通りし、詰問されることもなく無事に中へ入っていった。

 立派で、色鮮やかな街並みの中、商いをしている者の誘い文句が飛び交い、嗅いだらついつい涎が出てしまいそうな、美味しそうな匂いが漂っていた。どのような店でも見物できるように中央の道は大き目に開けられており、そこを買出しに来たような姿の者、子供や家族連れなど様々な人たちが行きかっていて、人ごみにごった返している。油断すれば迷子にでもなってしまいそうなほどだ。

 「人が多いのうー」

 「そうですねお義父様」

 「親父、まずは宿さがしからだよね?」

 「そうじゃのう」

 大人達が話し合って、一旦宿を探すことになる。先頭をバッシュが中央を子供二人、その後ろをはぐれないようにとぴったりくっついて、ヒーローがフウノの右肩をリーサがサリタンの左肩を掴み、固まって歩いていく。人にぶつかりそうになるが、上手に大人が庇ってくれるため、意外にすんなりと宿に着くことができた。

 カウンターで宿屋のおばさんにお金を払うヒーローを見つめたあと、隣りで好奇心旺盛に宿屋の外をきょろきょろと、せわしなく視線を走らせながら落ち着きなさそうにしているフウノを見て、内心サリタンは呆れてしまった。

 鍵を渡されて一部屋に息子夫婦、廊下を挟んだその向かいの部屋にヒーローと子供らで別けられる。

 部屋には備え付きの小さなテーブルと椅子が二脚、簡易ベッドも二つ壁際に置かれてあった。

 「一つのベッドをわしが使うから、もう一つに二人で寝てもらってもよいかの?」

 「あ、ぼく、は構いませんが……」

 ヒーローの言葉にためらいながらフウノが返事を返し、ちらりと心配そうな表情で隣りに立っているサリタンを見る。

 ヒーローの視線も己に向けられて、サリタンは溜め息を漏らした後、口を開いた。

 「……いいよ」

 その言葉にフウノは見るからに安心した顔をし、ヒーローは頷いた。

 「それじゃあ、歩き疲れただろうから、今日はゆっくり過ごすとして、店回りは明日で良いかな?」

 ヒーローが視線をフウノに向けてそう訊けば、無言で嬉しそうにこくこくと頷く姿が目に映り、ヒーローもつられて笑顔になる。

 「さあ、子供達は少し横になりなさい」

 ヒーローがフウノに近づいていき、背中を軽く押しながらベッドに誘導する。フウノは促されるままにベッドの上に転がると急にうとうとしだし、数分の後僅かな寝息が聞こえ始めた。サリタンはそれを無言で見ているとヒーローと視線が合い、目で語っていることは解っていたが、ベッドには横たわらず椅子の上に腰を下し、部屋の外を眺めることにした。

 空はいつの間にか日が沈み始めていて朱色に染まりつつあり、うるさいほどだった人の声も、僅かにしか聞こえなくなっている。視線をヒーローへ向ければ、彼はベッドに腰掛けて読書をしていた。

 静かだな、と思いながら視線を再度窓の外へ向け、ぼーっとしていると、サリタンの意識も少しずつ薄れていった。

 そうして暫くしてから、ヒーローは椅子に座ったサリタンも寝息を立てていることに気がつき、足音を立てないよう慎重に歩を進め側によると、両膝窩(しっか)に左腕を通し右腕を頭部から斜めに差し込んで頸部、肩甲骨までを抱え、胸元に寄せてサリタンを支えながらベッドまで歩くと、フウノの隣りへゆっくりと下し、横たえた。

 そして部屋には子供達の僅かな寝息とヒーローのページを捲る音だけが響き渡った。




 翌日、朝食後に早速息子夫婦らと五人で宿屋から出て人ごみに混ざりこむ。美味しそうな匂いについつられてふらふらしてしまいそうになる己を叱咤し、フウノは目的の店を探す為きょろきょろと周囲に視線を走らせた。

 ヒーローはそんなフウノを穏やかな表情で見守りつつ、サリタンにも気を配っていた。先頭のバッシュとリーサも楽しそうに笑い、会話しながら時折指をさしたりなどして足を進めている。

 行き交う人々に時折押されて流されそうになるが、足を踏ん張って体を安定させ凌ぎつつ、サリタンも歩を進めていた。

 暫く皆で固まって歩いていると、フウノは不意に左肘を誰かに引っ張られ、慌てながらも何事かと視線を向ける。と、そこには前に住んでいた村の女友達が立っていたのだ。少女の顔は輝いていて、まるで宝箱を見つけたような笑顔だったため、フウノもつい嬉しくなり自分の立場も忘れ少女との再会を、抱擁しあうことで喜びを分かち合ったのだった。



 普段からぽわぽわしているフウノがちゃんとついてきているかを確認するため、サリタンは左隣に視線をやった。

 すると居るはずだった少年の姿はなく、軽いショックを受け、つい立ち止まる。僅かに左側に身を寄せ素早く周囲に視線を走らせるが彼の姿は影も形もない。

 仕方ない、と思いながら前を向けば、ヒーロー達の姿も人ごみに紛れて消えており、一瞬足を止めたことで自身もはぐれてしまったと気づく。

 「くそっ……どこいったんだあいつ!」

 そう吐き捨てるように言うが早いか、サリタンは小さい身体を利用し、上手に歩く人々の合間を縫いながら走って行く。

 フウノの姿を探すために周囲を見渡しながら歩を進めていた為、時折誰かにぶつかり、足がふらつくが随時態勢を整えながら進んでいった。

 すると、隅の方で不安げにきょろきょろしながら佇んでいるフウノを、サリタンの双眸が捉え、舌打ちしながらよそ見せず、真っ直ぐ進んでいく。しかしフウノはサリタンに気が付いていないらしく反対方向へ歩き始めた。

 内心毒づきながら後を追い、数分後ようやくフウノが消えた場所まで追いつくが姿はどこにもなかったのだった。


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