8:エアーなテニスの王子様
エアテニサー、なんだそりゃ。
「エアギターってあるだろ、ようするにそれのテニス版だ」
「ようするにって、全然ようすってない。様子がさっぱりわからない」
まったくガテンがいっていない俺を見て、馬込はふむふむとうなづくと、突然カッと目を見開きながら、虚空にむかい左手を突き出し、「ぬああああああ」と絶叫しながら、反対の右手を大きく振りぬいた。ああ、なるほど。これは……。
「もしかしなくとも、それはテニスのサーブのつもりか」
「その通り。エアテニサーとはこのようにボール無しのまま全力で行うテニスのことなのだ」
いやはや、そんなドヤ顔されても困る。さすがの某王子様でもそこまではふりきってない。
「どうだ、恰好よかったかな?」
「いや、全然恰好悪いぞ」
そうあるがままの感想をぶつけたつもりだったが、馬込は落ち込むことなく、むしろ我が意を得たりといった顔でニヤリと笑った。
「そう、そうなんだよ。これは全然恰好よくなんかない。当たり前なのだ、エアテニスなどというふざけた行為に真剣さなどかけらもない、こんなものが恰好いいはずがないのだ。つまり、この姿はあのバカテニサー達が普段行っているなんちゃってテニスとまったく同じ行為なのだよ!」
「お、おおおお」
な、なんか今の滑稽な行動が立派な気がしてきたぞ。
「人のふり見て我がふりなおせ。俺たちが道化を演じることで、あのバカどもに自分達の滑稽さを痛感させるのだ。そうすることで奴らは改心し、この国の明るい未来につながるのだ」
「な、なんということでしょう」
「エアテニスが世界を変える!さぁ叫ぶのだ、ジークエアー!」
「ジークエアー!ジークエアー」
そうして俺は馬込と共にエアテニサーを立ち上げ、テニサー達が借りる予定だったコートに無断で侵入。二人でエアテニスを披露し、その滑稽な勇士を披露した。
「んんぬああああああああああ」
「ひょーーーーーーうい」
結果、警察を呼ばれて終わった。
敗因はすべて奴らの知性の無さっぷりをあまく見ていたことだった。奴らはあのテニスが自分達をあらわしてるなど微塵も感じなかった。俺たちをミジンコぐらいにしか感じなかった。
ただ、通報され逃げ惑う俺と馬込の間には、なんだか奇妙な関係が成立していた。「バカな若者を正したい」「この国をよくしたい」「日本を変えたい」、そんな想いを本気でいだくこのバカが、俺はそんなに嫌いじゃなかった……のかもしれない。