16:問答無用
「ん…ここは…」
「ああ、やっとお目覚め?」
気が付くと部屋のベッドで横になっていた。どうやらこの警察官をなのるお姉さまは俺が起きるまで待っていたらしい。
「気分はどう?」
ミネラルウォーターを差し出される。それを片手で受け取り、一口。
「まったくもって最悪ですね。せめて膝枕ぐらいのサービスがあったらここまでひどい目醒めにはなっていなかったのですが……」
「あら、膝枕ぐらいでよかったんだあ、じゃあ、あそこまでサービスする必要なかったのねえ」
「ね、眠ってる間に何してたんですか!?」
ちくしょー、どこに行った俺の記憶!
それにしても…このお姉さんのノリがよくわからない。いきなりあらわれビンタをくらわし、セクシージョーク。まったくもって謎である。まあそもそも何者なのかすらよくわからないのだから、当たり前か。
「それで、結局あなたは誰なんですか。俺に何か用ですか」
「うん、やっと本題に入れるわね!さて、それでは改めまして…」
食卓というほど立派なものではない、どちらかというとちゃぶ台に近いテーブルに向かいあう形で座り、改めて自己紹介から始まった。
「私の名前は池上マキ、警視庁警備部所属の婦警さんです。あなたは大山雄介くんで間違いないわね」
「はあ……たしかに大山雄介は自分です」
「ええ、大山くんは半年前に大学を中退後、就職活動を一応続けるも、ことごとく失敗。最近ではそれも億劫になり、現在は進学も就職も職業訓練も受けていない、いわゆるニートである。間違いないですか?」
「う…は、はい……」
なにこの人、なんでこんなに俺のこと調べ上げてるの、超怖いんですけど。もしかして俺のファン?うん、それはないね。
「わかりました、ええ、それでは大山雄介くん、これはあなたに宛てられた拘束状です。本日付であなたを“特定若年者雇用機会支援法”の支援対象者に認定いたします」
「え?な、何ですかそれ」
「あなた…知らないの…」
「はあ」
こちとらニュースなんて見ませんので、最近の情勢に疎いです。あと友達もいないので話題にものぼりません、ごめんなさい。
「よくもまあ…こんな自分に直接関係ある重大法案の事を知らないでいられたわねえ……。まあいいわ、簡潔に説明すると、あなたはこれから“夢の島経済特区”という場所にて、政府による就労支援を受けてもらいます。拒否権はありません。そして私はあなたのそこでの生活を担当する執行官、OK?」
「いやいや、えっ?突然そんな事言われてはいそうですかってなるわけないじゃないですか!」
「問答無用、もうこれは法律により決まったことですので、文句はこの法律を成立させた国会議員、そしてそれを選出した国民の意思を恨みなさい。さあ、これの中に必要なものだけ入れて、さっさと移動するわよ」
そう言って、俺にボストンバックを手渡すお姉さま。
「そんな事言われて、はいそうですかと用意できるわけねえだろ」
「はい、そうですか…それでは皆さん、やっちゃってくださーい」
お姉さまの合図のもと、突如、黒ずくめの集団が部屋に乗り込んできた。
「ちょ、え、おま!」
何だ、何だこいつら!な…なにを…す…る。
推理ドラマよろしく得体の知れないハンカチを口元にあてられ、俺は意識を失った。




