15:そして運命の日がやってきた
この退学からのニート生活という事実を、俺はまだ自分の親に打ち明けられないでいる。
両親共に世界中を飛び回って仕事をしており、連絡をとろうにもこちらからコンタクトをとることが出来ないという事もあるが、やはりこんな自分の状態を正直に話す事に抵抗があるようだ。我ながら大変情けない……。
最も、超絶な放任主義かつ楽観主義たる我が両親の事である。退学になった事実を伝えたところで、
「あらあら、これで何の特徴もなかったユウちゃんにやっとおもしろいハクがついたわね、うふふ」やら「それで雄介、めでたくこの支配からの卒業をする事になった身として、ちゃんと夜の校舎の窓ガラスはぶっ壊してきたのか?」
「あらあらパパ、ユウちゃんにそんな度胸あるはずないじゃない、だからあなたは未だに童貞なのよ」「そうだな、童貞だもんな」等とバカな発言をするぐらいであろうから、決して怒られるのが嫌で話していないわけではないのだが……。
何にせよ、幸いにしてこれまで貯金してきたバイト代がたんまりあり、親からの仕送りと合わせれば当分の間生活には困らない。だからこそニート生活になってしまったという事は否めないが、大学を退学となって半年間、俺は存外普通に生活をおくれてしまっていた。
いつまでもこの生活を続けるわけにもいかない。現実的にバイトだけで食いつなぐことは、20年、30年という年月で人生を考えた際にはどうしても無理が生じる。何かかなえたい目標や夢があってのバイト生活というならまだしも、それらが何もない状態でのフリーターは本当に厳しい。何とか就職しなければ……その気持ちに嘘は無い。
しかし、こうも就職活動がうまくいかないというのは本当にこたえる。応募→試験→失敗→応募→面接→失敗……その無限ループを繰り返すたび、「お前は社会から必要とされていない」とレッテルを貼られ続け、俺の心は疲弊していった。
自分は周りに比べ決して劣ってなどいない、むしろ優れているほうだ。そう思っていたプライドがずたずたにされる毎日。まれに訪れた最終面接の機会、やっとこれで終われると希望をもった瞬間に、やっぱり来る不採用通知、“お祈り”メール。人々の希望を絶望に変えるなんて、まったくもってどこぞのインキュベーター様だ。
このままこの不毛な戦いを繰り返していては、俺はいずれ希望が絶望に変わり、ただ災悪を振りまくだけの魔女になってしまうだろう。それはなんて最悪だ!というわけで俺がこの就職戦争を放棄するのはあくまで人に迷惑をかけないためなのである。たとえそれが自分のクビをしめ、よしんば自分のクビをくくる未来に繋がる可能性があろうとも、他人に迷惑をかけるわけにはいかないのだから仕方ない。
まったくもって自己犠牲精神のかたまりである。あー、今日も世のため人のため、ダラダラするのも楽じゃないわあ。
と、ここのところ毎日のように繰り返される俺の脳内言い訳…もとい自己分析により、今日も俺は自分がニートであることに正当な理由をつけた。
そんな折、突如玄関のインターホンがなった。
「はいはい、今でますよーー」
宅配便、何か頼んであったか?という疑問を抱きつつ玄関のドアを開けるとそこにいたのは見慣れた青白もしくは緑黒の制服を着たガチムチ配達員さん(仮)ではなく、タイトな黒スーツに身をつつんだ美人なお姉さんであった。
お姉さん、ニッコリスマイル。あらお美しい。目と目があう。よし、うん、わかった。そういうことか。
「宗教ならお断りでーす」
開けた勢いそのままにドアを閉めにかかる。
「て!ちょっと待ちなさい!」
「ぬお、へ、ほへ」
だがしかし、美人なお姉さんは俺が閉めかけたドアに無理やり自分の足をつっこみ、ドアノブを握り無理やり開けようとしてきたのだった。その力強さと先刻までの笑顔とのギャップに驚き思わず変な声が出た。
互いにドアノブを握りしめつつ、扉一枚はさんだ攻防が始まる。
「いや、宗教なら間に合ってます!本当です!今もちょうど嫌いな奴の名前ノートに書きまくってましたもん」
「何の宗教よそれ!違うの私は…」
「新世界の神っす!死神っす、だから俺宗教間に合ってますんで、早く帰ってください。でないと俺、お姉さんにひどいことしちゃいます!自分で自分をコントロールできないんで…ぬあああああう…ううう、うずく!俺の俺の邪眼がうずくよおお!」
「だから違うって言ってるでしょ!」
何と、変人を装い追い返す手法が通じないだと!いつしかお姉さんの笑顔は消え、おでこに怒りの赤スジを浮かべつつ、なおもお姉さんのドアを開けようとする力は弱まらない。
あっ、ちなみに本当に宗教の勧誘だった場合、ただ「間に合ってます」だの「僕○○教の信者なんで結構です」なんて言っちゃうと、「まあ、あんな邪教に洗脳されてるのね!これは大変!今すぐ私が助けてあげるわ!」等と叫ばれ“火に油”な状態になるから要注意である。大事なことは相手がどん引くぐらいの変人を演じること、こいつにかかわったらやばいと思わせる点にあるのだ。これ、マメな。
閑話休題
まさか変人装い作戦が通じないとは……困ったものである。しかし宗教でないとすると何なのだこの人は、ああこれはもしかして……。
「N○Kも間に合ってます!」
「だからそうじゃなくって!」
「じゃあ何なんですかあなたは、いい加減にしないと警察呼びますよ」
「もう来てるのよ!」
えっ?なんだって?
「だから、私が警察です!」
「け、警察!」
予想もしなかったお姉さんの招待に驚き、思わずドアノブを押す力を緩めてしまった。
「っって…きゃああ」
「う、うわあ」
拮抗していたドア越しの押し合いが突如打ち切られ、後はもうお約束、力あまってお姉さんが俺に向かい倒れてきてしまった。
「……いててて」
「だ、大丈夫ですか大山さ…ってきゃああああ」
そしてこれまたお約束通り、玄関で押し倒された形となった俺は、無意識のうちに倒れまいとし、藁をもつかむおもいで彼女の乳をつかみながら、倒れてしまっていた。
「な…何するんですかーーーー」
そしてまたまたお約束通り、馬乗り状態のまま俺は激しいビンタをくらい、失神してしまった。む…むごい。




