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12:福園先生……ダイヤが…欲しいです

 「ぬ……ぬおおおおおおお」

 

 ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ。


 誰かが走り出したのを合図に、静けさから一転、再び周囲は怒号うずまく状態になり、誰もが我先にと一直線に走っていった。そして俺の周りには誰もいなくなったとさ……。


「おいおい、馬込さんよ……。まさかとは思うけど、先生って……」

「もちろん、我らが心の師、本大学の創始者である……」

「福園先生かよ……」


 福園諭吉、明治の思想家であり実業家。我が帝応大学の創始者でもあり、本学の生徒なら誰もが知っている偉人である。他大学の創始者よろしく、もちろん我が大学の福園先生も銅像がある。もちろん、馬込が出したヒント、先生とはその銅像をさしているわけで……。


「さすがにここまで言えば、あのバカ達でもわかったかな。それでは雄介!」

「何だよ」

「結末を見に行くぞ」

「俺も?」

「お前も」

「絶対?」

「王様の命令は?」

「絶対ですね……」


 ため息を一つ、俺は王様と共に銅像がある大学の図書館前に移動した。


 するとそこには、ダイヤ争奪組がまさに一心不乱に銅像へ群がっていた。よく見ると、先生のオデコは某三つ目よろしく大きな絆創膏が貼られている。


「なるほど、あそこに貼ってあるわけか」


その絆創膏を剥がすべく、台座を含め3メートル以上ある銅像に我先に登ろうとする烏合の衆。


 ダイヤは早い者勝ちなので、誰か一人が登ろうとすれば後ろの者がそれをひっぺがし、また誰かが登ろうとすると後ろの誰かに蹴落とされる。その姿はさながら、蜘蛛の糸に群がる地獄の民のようだった。


 醜い人の業をまざまざと見せつけられ、げんなりする。


「見ろ雄介、バカがゴミのようだーーー」

「すでに人ですらないのかよ……」


 まあ、わかる気もするが。


「雄介、あれがこの世の縮図だよ」

「どういうことだ?」

「目の前のエサに夢中になり、我先にとそこに群がる。エサが本当に価値があるものなのか、そこに疑問をいだくことはなく、ただ皆がほしがっているから自分もほしくなる」


 たしかに……その通りだ。木を見て森を見ず。平均大好き、周囲に流されやすい国民性。それは決して平等や博愛主義から生み出された美徳ではない。しかし……俺の本音はといえば……。


「うらやましいな」


 思わず心の声がもれていた。


「えっ?」馬込がきょとんとした顔で俺を見る。


「いや、まあ正直言ってうらやましいよ。どんな事にせよ、それって目の前の事に熱中してるわけじゃないか。その姿の美しさはともかくとして、一心不乱、何かに熱中できることがうらやましいよ。俺にはできない。盲目的に他者に習ってるだけだとしても、俺にはそれがうらやましい」


「まったく、君という人間は……」


 ため息交じりにあきれながらも、馬込はニヤりと笑った。


「ん?何だ?」

「いや、何でもないよ。君はいつも僕の予想を裏切ると思っただけだよ。もちろん、いい意味でね」


「君が何を言ってるかわからないよ」

「好きってことさ」

「カヲル君!?」


 言っておくが、お前とのホモルートに入る気などさらさら無いぞ、馬込。


「なんだいなんだい、そこは“うれしいな、こんな時どんな顔すればいいかわからないよ”と答えるとこだろ」

「死ねばいいと思うよ」

「大丈夫、死ぬ時は一緒だ!」


 サムズアップしながら無邪気に笑う馬込。しかしこの時の俺は、まさかこの言葉が真実になるとは……夢にも思わなかったのだった。



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