10:馬込閣下は優しくない
「おい、一体なんだこのバカ騒ぎは」
「宝探しだよ。くっくっく」
あきれ顔の俺とは対照的に、馬込はしてやったりといった顔だ。それにしても、こいつがこんなゲームにちゃんと高額な景品を出すとは、正直意外だった。
「今回はちゃんとしたゲームなんだな、いつもの搾取とは違って」
馬込なら、このようなゲームにしても基本的に金を奪うだけ奪って、返さないのが常だった。もちろん、参加者には決して騙されたとは思わせないやり方でだ。すると、馬込は真顔で首をかしげる。
「ちゃんとしたって、何のことを言ってるんだ?」
「何って、参加者から集めたお金で買ったんだろ?105万円のダイヤ」
「あぁ、半分正解だな」
「半分って…」
おい、まさかだとは思うが…。お前……。
「それでは逆に聞こう。いったい、いつから俺が105万円のダイヤを買ったと思っていた?」
「なん…だ…と…」
ってやっぱりか、何だよそれ。つまりあれは偽物なのか。
「偽物とは失敬だな、列記とした本物だよ。50万もしたんだ、文句ないだろ」
「それでお前は50万丸儲けかよ、なんという外道」
しかし、そんな俺の叱責に対しても、奴はしれっとこう答えた。
「あぁ、それも半分正解だ」
「えっ?」
「過去の50万と今の50万が等価値なわけないだろ!集めて残った50万は俺がしっかり株の運用に回して、倍にしておいたよ」
「なん…だ…と…」
つまりこいつは学生たちから50万まきあげただけでなく、あまつさえその金を増やしていたというのか……。相変わらずとんでもない奴である。しかし……。
「だったら、増やした分だけ懐に入れて、ダイヤはきちんと105万分買えばよかったじゃないか」
「ふん、この金もバカが持っているだけでは一銭も増えないのだから、俺が持っていたほうがこの国のためだろう」
馬込はしれっとそう言い切った。入学式に出会ったこのバカは、今日も絶好調に日本の未来のことを考え、自分なりの正義を貫いていたのだった。