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黒き狼


「ただ歩くだけってのもつまらないなぁ」


流れ行く景色を見ながら俺は歩を進める。

特に代わり映えはしないんですけどねー。


マリアが言うにはあと二時間ほど歩けばいいらしいけど、それにしても暇だ~っ。


「……」


話し相手でもいればいいんだけどね。

このマリア、全く喋ってくれません。


男と話すことはありませんってか?

不便だよこの世界。

昔の日本も男女差別ここまで酷くなかったと思うよ?


そのくせ、たびたび襲ってくる。

もちろん物理的な意味で。


「あの、リグレットさん?」

「……」

「いきなり剣を振るってくるのは如何かと」

「……」

「マリアちゃーーんッ!?」


ビュンッ


と風を切る音と共に前髪が散っていった。


「いやいや名前よんだからってこれは酷くないっ!?」

「……」

「無言!?切っといて無言ですか!?」

「……」

「ほ、本当はあんたなんかと話したくなんか無いんだからねっ!」

「……」


あ、やべぇ、こいつスルースキルぱねぇ!

てか報われなさすぎだろ俺!

死にてぇ今すぐ!!!


「ほぅ、死にたいか。では手伝ってやろう」

「心読まないでくれます!?ってか、へ?マジで?ちょ、剣を納め……イヤァァァァ!?」


ここでまた髪の毛を切られたことは俺の記憶に新しい。

あ、もちろん数本ですよ?


マリアが剣を納めたのを確認して俺は何気なく声をかけた。


「腕、痛いなら下らないことで剣抜かない方がいいと思うけどな」

「気づいてたのか」


てかまぁ俺がやったんだしな。

ひびぐらい入ってんだろ。


「その、あれだ。回復魔術とかないの?ケ○ルとかホ○ミとか」

「ほ……いみ?ふん、出来るものならとっくにやっている」

「デ、デスヨネー」


うぅヤバイ。


今更ながら罪悪感が沸いてきたぞ……。

戦闘中は別に気にしないんだが、やっぱりねぇ?

傷つけた人と一緒にいるとねぇ?


と、前から未だ聞き慣れない、彼女の声がする。


「別に気にしていない。怪我をしたのは私の実力が足りなかったからだ」

「そうは言ってもだな……。まぁ、なんかあったら俺が守らせてもらうよ」

「なんかあったら……というがこんな森で大事にはならんだろう」

「ガルルル……」

「まぁな、でも今みたいにガルルルって聞こえるかも……ガルルル?」

「ガルルガァァッ!!!」

『!!!』


地を震わすほどの咆哮の刹那、巨大な獣が襲いかかってきた。


その牙が俺を貫くコンマ一秒速く、横っ面を木刀でぶん殴る。しかし


「ガルルル……」

「割りと全力だったのに無傷ですか……」


獣は数メーターの間をあけ、睨み付けるように機を窺い始めていた。


軽車両ほどの体躯に、黒い毛並み。

見た感じだと狼に近いが、口の両端に付いた二尺ほどの突起物がそれを否定する。


一対の突起物は薄く、鋭く、反りがあり、刀のような印象を持つ。

隣を駆け抜けられたら真っ二つにされそうなくらいの威圧感。


「サーベルウルフ!?なぜこんな森に!?」


珍しくマリアが取り乱している。

よほどの魔獣ってことかい。


そしてサーベルウルフ……こいつの名前か。


「お前!!!敵う魔獣ではない!!!逃げるぞ!」

「四足の相手に速さこそ敵うかって」

「では戦うのか!?正気かお前!!!」


馬鹿野郎。

一瞬マリアが気をこちらに向けた瞬間だった。


黒狼は黒い弾丸と化し、マリアへと突っ込む。

俺は素早く彼女との間に入り込み、木刀を盾にするように受け止めた。


「やっ……ぱ重めぇ、なッ!ここ、は引き……付けて置く、から逃げろ」

「死ぬぞ!?」

「死な……ねぇよ!!!」


全力で踏み込み直し、僅かに黒狼を押し返す。

だが離れる瞬間、黒狼は首をスイングし、自らの刃で俺を弾き飛ばした。


地面を転がった後、木にぶつかってやっとのことで止まる。


「おいおい……一発で木刀がおじゃんじゃねぇか……。徒手空拳は得意じゃないんだけど?」


口の中に溜まった血を吐き出しつつ軽口を言ってみる。


木刀の刀身は刃を受けた時点で弾け飛んでいた。

結構受け流したつもりなんだけどな……。


追撃に来る黒狼を前に、俺は柄だけになってしまった木刀を構え直す。

そして、袈裟斬りに刈り込んでくる爪を前にかわし、顔の目の前まで距離を詰める。


こんな得物じゃ傷はつけられねぇ、それは初太刀で経験済みだ。

ならばーー!!!


「目 玉 し か ねぇだろ!!!」


腕力、体重、勢い。すべてをかけて俺は腕を前に突き出した。


その手に握られた柄は、鈍く輝く瞳へと吸い込まれーー


ーー潰す。


「ガルァァアアア!!!」


黒狼の絶叫が大気までも揺らす。


そんな中噴水のように上がる血飛沫を浴びながら俺は感じた。


下がらないとーーーー死ぬ。


しかし、本能が告げるこの警告に俺の身体は動いてはくれない。


重心が前に出すぎている。


それもそのはず、持てる全力で瞳を奪ったのだ。

体勢が崩れないわけがない。


「ガァァアアア!!!」


黒狼の残った片目が未だ目の前にいる己の敵の姿を捉える。


すぐさま黒狼は口を絶叫の形に開けながら、喉の奥を俺に見せるようにした。

その中心へ不可視の力の流れが集まっていく。

その奔流は流れ、渦を巻き、確かな魔術へと構成されてゆく。


それはまさしくブレス。


「ここまでか……?」


これを食らって流石に無事とはいかないだろう。

運良く生き残ってもなぶり殺されるはずだ。


マリアは逃げたかな。


途中から気にする余裕はなかったけど、まぁ仮にも騎士?なんだし、大丈夫であると思いたい。


とまぁ、こんな風に考えていたらブレスが輝きを増してきた。


この時間は数秒だったのかはたまた一瞬だったのか。

どちらでもいいがこれで終わってしまう。


けたたましく反響する黒狼の咆哮。


「ガルァァァァァァァァアッブッ!!!!?」


だが、いつの間にかその口が閉じられていた、否、強制的に閉じさせられていたのを、頭が理解したのは速くはなかった。


魔術による小規模な爆発が顎の下で起こった。


理解できたのはここまでだ。


「だぁッ!!!」


俺はすぐさま横に転がり込む


刹那。

放たれるはずだった力の奔流は、密閉空間(くち)の中で行き場を失い、暴発する。


俺の転がった先にいた人物はその様子を眺めながら形のよい口を開いた。


「……まだ死なないのか。流石にサーベルウルフともなると堅いな」

「リグレット!?なんでーーー」


俺の異議など申し立てないといったようにマリアは口元を緩めた。


「なにかあったらお前が私を守ってくれるのだろう?」


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