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聖母の後悔

「あれが魔術……ってやつ?薄々あるとは感じてたけどさ」


しかし、食らっていたらと思うとゾッとするな。


咄嗟に川に飛び込んだものの、これが火じゃなくて風とかだったら無事じゃ済まなかったって。


濡れてしまった服を脱ぎつつ、俺は女に目を移した。

雪のような白い肌に燃えるような真っ赤な髪。

絶妙なコントラストがなんとも言いがたい美しさを表している。


やっぱ可愛いよなぁ。


ハッ!?悪戯しようなんて思ってないっすよ!


「一応蔓で縛っといたけど、やっぱり不安だ……」


だって火とか出せるんだし。すぐ切ることも苦じゃないだろう。


RPGとかでありげな詠唱とかもしてなかったから口を塞いでも意味ないだろうし。


はぁ……前途多難ってやつですか。


「んんっ……」


とまぁ、ため息をついていると、くぐもった声が聞こえてきた。

女が起きたみたいだ。


「はッ!?お、お前!くそっ手が……ほどけ!!!何故服を脱いでいる!?」


騒がしい奴だな……。


ちなみに言っときますけど、下着と袴は着てますからね?


「あー、その、あれだ。質問に答えてくれればほどくから。」

「男の言うことなど信じられるか!!!」

「はいはい。で、お名前は?」

「……」

「ここはどこ?」

「……?」

「この国の名前は?」

「???」


お、少し興味持ってもらえたかな?


女は警戒の色を深めながら口を開いた。


「お前……この国の者ではないのか?」

「まぁ……そうだな」

「どこの国だ」


さて、どう答えたものか。


日本……はないだろう。

俺の知っている日本は少なくとも魔術は使えない。


ダメもとで本当のこと言ってみるか?

うん、十中八九頭おかしい人扱いされそうな気がする。


でも十中八九ってことは一割は信じてもらえるんじゃないか?

その一割に俺はかける!!!


「俺は……ここじゃない世界から来たんだ」

「ほう……この期に及んで私を愚弄するか……」


はいアウト!!!

完全に警戒体制いただきましたぁ!!!


「ふん、では質問を変えよう」


うん、なんでこの子は上から目線なのかな?

しかも逆に俺が質問されてる?


「名はなんだ」

「宇佐 葵。葵が名前だな。しっかし人に名乗らせといて自分はだんまり?」

「……マリア・リグレットだ。名はマリア」


渋々といった様子だ。

そんなに嫌かいそうかい。


聖母(マリア)後悔(リグレット)……ね。


「何故ここにいた」

「三日前、目が覚めたらここにいた」

「奴隷商にでも拐われたか?」

「どうだかな。マリアは?」

「名で呼ぶなッ!!!」


っ!!!

名前で呼んだらすごい剣幕で怒鳴られた。


顔は崩さなかったけどさ。

崩さなかったよね?


でもいきなり名前で……ってのは慣れなれしかったかな?

いや、理由はそれだけじゃなさそうだ。


「リグレットは?」

「……森で異変があったというのでな。巡回中だ」


一人で巡回……ってことは町が近かったりするのか?

それかマリアが余程の達人級に強いとか……。



それはないな。

彼女には悪いけど俺に負けてるようじゃ腕が立つとはいえない。


で、さっきから高圧的でこちらを見下してる感がひしひしと伝わってるのは気のせいじゃないはずだ。

言葉にもトゲがある。


「おい」


また声をかけられた。


「ん?」

「先程も聞いたが……お前は本当に男なのか?」

「……どうしてそう思うんだ?」


あらやだっ。あたしが女の子にみえるのかしら?


って冗談は置いといて、だ。

この流れは俺が聞きたかったことにも持ってけそうか?


「男は皆下種だ。頭の中は欲に染まり、暇あらば女を犯すことばかり考えている。そのくせ弱く脆い。魔術も使えない。」


ここだ。俺とマリアの認識のずれ。

いや、この場合この世界の理に俺がずれてることになるのかね。


「なのにお前は私を倒した。これをどう説明すればいい!!!」

「男は女よりも弱いのか?」

「なにを当たり前なことをッ!!!どんなに男の体格がよく、男の中で強かろうと、女には触れることさえかなわない。常識だ!」


……男が力、魔術において女よりも劣ってる。


だから見下し、自分とは別の存在だと認識している。


自分とは違う。そう思ってるってことか。


だから俺は、それが許せない。


「で、聞きたいのは俺が女よりも強い理由」

「そうだ」

「んなこと知らねぇよ」

「っ!?」


ぞんざいな回答にマリアの顔が驚きで染まった。


だが俺は続ける。


「男が女より強くちゃいけねぇのか?別にいいだろうよ」

「しかし!世が始まった時からそれは決まっていて……」

「でもお前は俺に負けたんだろうが!!!俺らは同じ人間だろう。それじゃダメなのかよ」

「男と、男と同じなど……」

「はぁ」


こりゃ、大変そうだな。


息を深く吐く。

そしてゆっくり吸った。


気を充実させる。


「まずはその価値観を壊す。そしてこの腐った世界も変えてやる!」

「なっーー!?」

「俺は男尊女卑だとか女尊男卑だとかは大ッ嫌いなんだ。掲げる信念はそうさなぁ。【男女平等】だ!!!」

「そんなの、馬鹿げてる……!」


俺は縛っている蔓を切って拝借した剣を投げ返す。


「俺はお前に失望させるようなことはしないから。それで男もまだ捨てたもんじゃないって思えたら、嬉しいかな」

「……そんなこと……信じられるか……」

「あぁ、今はそれでいいよ。でも剣返したからって、いきなり襲ってくるのは無しな?」


そう言って俺はにっこりと笑ってやる。




こうして俺は、世界を変えることになっちゃいました!?


なんでやねーーん!

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