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異世界 (仮)にやってきました?

一面に広がる自然の香り、木々から差し込む木漏れ日、朝を告げる小鳥の囀り。


さぁ、今一度状況を確認しよう。


俺、宇佐(うさ)(あおい)は、目覚めた後、剣道着に着替え木刀片手に庭に出た。


そこで日課の素振りをし、まだ肌寒い風を浴びながら寝ていたはずなんだ。


そう、だから振り向けば我が家がそこにあるはず…… なのに、


「なんで森ィィィィ!?」


家は跡形もなく消え、見渡せば森。


俺の柔らかいと定評の頬は千切れるほどつねった。


というか、東京住まいの俺がこんな大自然にいることが不思議だよね!?


いつから都会(コンクリートジャングル)密林(ジャングル)になったのかな?

いや、普通ならねーよ。


と、慣れていない一人ボケツッコミをしちゃうぐらい取り乱しております。かしこ。


「いやいや、落ち着けよ俺。まずは現状を確認だろうが」


持ち物は今着てる道着に、木刀、体の下に敷いてたベンチコート。

食べ物はコートのポッケに入ってたチョコレートか。


うん、絶対絶命だよね。

まず水がないもん。


でも、水の気配もないんだよなぁ。

川があっても飲めるかわからんし。


あとは季節、か。


今は1月で冬だったはずなのに、この森林は暖かい。

どんぐらい快適かというと、寒さに弱い剣道着でいられるぐらい快適だ。


ということは……だ。


「ここはまさか異世界………っなわけねーよな」


口にでた憶測を自分で否定する。


やばいやばい、親友におしえてもらった小説サイトの読みすぎだな、こりゃ。


でもそうでもなきゃ、これは説明できない。


まぁ、異世界召喚モノはだいたいすぐ、現地の人が助けてくれるって相場が決まってるのよ!


今は動かず、助けを待つことが先決。



◇ ◇ ◇


そう思ってた時期が俺にもありました。

あれから三日経った。


まだ森だよ!食べ物もうねぇよ!!!


結局一日目、喉の渇きに耐えられず、そこら辺をさ迷っていて、なんとか川を見つけ出した。

もう一生分の運を使った気がする。


え?川の水?

もちろん飲みましたよ?

お腹下したりしなかったから、多分大丈夫な水……のはず。


そして、食べ物。


大事なチョコレートは二日目の朝には無くなってしまった。

もともと量はなかったし、まぁ持った方だろう。


あとは川魚を数回ぐらいトライして捕まえました。


え?森には動物がいるんじゃないかって?

もちろんいますよ、うさぎから熊さんまで。

でもさ、仕留めたとこで東京育ちの俺に血抜きができるとお思いですか!?


ただでさえ、得物は木刀一本。

大事に使っていきたいところなのだ。


それに内蔵やらに寄生虫とか持ってるってなんかで聞いたし、それを取り除く技術も道具もないんだよ!


「って、俺は誰に話してんだ……」


それでも、育ち盛りな高校二年生。

魚一匹じゃ腹も減るわけで……いま、三日目の昼っす。


そういえば火を起こすのも大変だった……。


マイギリ式なんて作れる知識ないから、キリモミ式一択。

かなり時間かかりましたよ。

手も痛いし……。


それで一回風が吹いて消えたときは、泣きそうになっ…いや、泣いた。


今は消えないように昨日から木をくべてます。



それと、三日もすれば解ったこともあるわけだ。


まず、俺の身体能力。

なんだかわからんけど、全体的に上がってる。

少なくとも熊さんとタメはって勝てるぐらいには上がってる。


これが噂の召喚補正ってやつなのかね。

ますますここが異世界であることに信憑性が高まる今日この頃。


それと、精神面でも少し変化が現れてる。

脳内麻薬垂れ流しになってんのか、なんか恐怖心やら、痛みやらに鈍くなっているみたいだ。


いや、恐ぇよ。


てかいい加減ベットが恋しい。白米食べたい。


はぁ、そんなこと考えてもしょうがないよな。

取り合えず、また魚を捕まえに行きますか……。


水面が太陽の光を反射して、煌めいている。


俺が片足を水に入れたその時だった。


「お前は誰だッ!!!」


大声に辺りの鳥達が空へ舞う。


高圧的な口調だが、声質は女だった。

いや、そんなこと関係ない。

人と遭遇するなんて願ってもないチャンス。


「助かりました!この森で……」


振り返りつつ、助けを求めようと出した声は、最後まで言い切ることができなかった。


「私の問いに答えろ!!!」

「ーーッ!?」


なにせ突然、女が切りかかって来たからだ。


縦に降り下ろされた剣を俺は反射で転がりながらかわす。


その際に転がっていた木刀を引き寄せた。


「ほぅ……偶然は二度も続かんぞッ!!!」

「なんでこうなるッ!?」


再び剣を振るう女。

その剣は先程より速く、鋭い。


それを俺は木刀の鎬を使って三日月を描くように擦り上げる。


「なッ!?」


今度こそ、女は驚愕に顔を歪めた。


まさか木刀に真剣が往なされるとは思わなかったのだろう。


剣道の擦り上げ技の要領で、面を打ちにいく。

しかし、女は首を傾けて避け、距離をとった。


俺と相手の間、約四メートル。


女は剣を構えながら口を開いた。


「男の分際で女を立てつくのがどんなことか分かっているのか?」

「意味わかんねぇ!!!」

「そのような言葉使い…身の程を知、れッ!!!」


首を狙った刺突。


速い、が今の俺には脅威じゃない。


一歩後ろに下がり、剣の腹を横に擦りながら押して、勢いを萎やす。


技の尽きるところ、短い呼気と共にすかさず打ち込んでいく。


受け手は見るからに受けるだけで手一杯、という感じだ。


「っ!?」


五か太刀目を受け止めた時、女の姿勢が僅かに崩れるのを捉えた。


そこを狙わない俺じゃない。


「ハァァァッ!!!」


降り下ろされた木刀は右小手を捉え、女はその手から剣を取り落とした。


剣を蹴飛ばしながら、木刀を額に突きつける。


「勝負ありってか?」


女は恨みがましそうに俺を睨み付けた。


「お前……本当に男なのか……?」

「は?」

「私は男のような下等生物に負けるほど軟弱ではない。ならばお前はなんなのだ。」


……こいつの喋ってる意味がわからない。


なんのことだ?

男は下等?軟弱?


まぁ聞くが早いか。


「俺は男だ。だからーー」

「ならば死ねッ!!!」

「ーー!!!」


女が声を荒げた瞬間、全身の毛が逆立つような嫌な空気を感じる。


これは

まずい

今すぐ 離れろ


全身が警告を鳴らす。


無意識に俺が地を蹴った時には、凄まじい音と共に目の前が真っ白になってーー


◇ ◇ ◇


「やったのか……?」


小さな声で呟いた。

その声の主である女に変わったところはない。


ただ、周りはその例ではない。


草木は燃え、炭化しているところもある。


「私が魔力を全て注いで打ったのだ。生きてるはずがーー」

「ないってか?」

「ないッーー!?なぜおまぇ………」

「あらら、倒れちまった。さて、どうするかな」


疲労からか?

横たわる女を見て、俺は一人呟いた。


あれ?意外とこいつかわいい?


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