鈍感利佳子
「利佳ちゃん?」
「はっ」
利佳子はボーっとしていた。
今のはなるせ(犬井なるせ)だ。
「何…?」
「ボーっとしてたね」
利佳子はそのまんま言われた。このとき、利佳子は浩也のことを考えていた。浩也は何故利佳子にボケと言ったのだろうか。看板を踏んでしまったのは踏んでしまったが、利佳子にはわからなかった。しかし、浩也のことが気になるのは確かだった。こんなにも人を考えたことは利佳子にはなかった。そう、すなわち恋なのであろうが、利佳子は鈍いうえに恋心を抱いたことがない。しかし、なるせは感づいたようだった。
「利佳子!」
「うわぁ!」
利佳子はまたボーっとしていた。
「あんたボーっとしすぎ!」
「ごめんなさい…」
なるせに怒られたところで、なるせが利佳子に尋ねた。
「利佳ちゃん、なんかあった?あ、だれか好きな人のこと考えてたんだ!そうでしょ!?」
利佳子は少し間をおいて答えた。
「好き…?って何が?」
なるせはマンガのようにずっこけた。
「あのねぇ、あんた中3でしょ!?好きくらいわかるでしょ!」
「うん!私チョコが好き!」
なるせは利佳子のおでこににデコピンした。
「ちがーう!人のことだよ!利佳ちゃん今だれか男の子のこと考えてたんじゃないの?」
「よくわかったね」
「え!だれ、だれ!?」
なるせは興味ありそうに利佳子に尋ねた。
「うん、大熊くんのこと考えてた」
「そうなんだ。利佳ちゃんは大熊くんが好きなんだ。知らなかった」
「え?好きって何?」
「だぁかぁらぁ!大熊くんでしょ?」
利佳子は人差指でおでこをおさえた。
「人を好きってどういうこと?」
「うーん、利佳ちゃん人を好きになったことないの?」
「うん」
「簡単にいうと、特定の男の子のことばかり考えちゃうわけ。いやなことでじゃなくて、なんかこう、ドキドキするんだよ」
「うん!今ドキドキしてるよ」
「やっぱり。利佳ちゃんは、大熊くんのことが好きなんだよ。わかった?」
「そうか、私は大熊くんのことが好きなのか」
腕を組み考えている利佳子を見て、なるせはため息をつくように笑った。