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気まずい雰囲気もだいぶ緩んできた朝方、朝日が山間に射して、下山後の街道を温かく照らしていた。
「お嬢様、次の関所までの間に、一回中休止を入れたほうがよろしいのではないでしょうか。従者たちもだいぶ疲労しています」
と、アベが進言してくる。私は頷いた。
「そうね、もう少し距離を稼いだらそうしましょう」
しばしの無言の後、ムラキが急に私に言った。
「あの少年従者、才能がありますね。霊能を持っている。あれならかなり高位の呪物を扱えますよ」
ムラキがクラベについてそんなことを言った。霊能とは文字通り霊能力のことで、霊視や霊聴についてを言う。私も霊視の類ができる。「透視」もその一種のようなものだ。
格的には霊聴が下で、霊視ができるものが中位格。両方できるものが上位の霊能を持っているとされており、霊視も霊聴もできるものは本当に稀だ。
そして呪物はその霊的な資質を用いて稼働する代物らしく、昔から、呪物を使うのは霊能を持ったものが最善とされている。
「生体エネルギーを呪物を稼働させるための力に変換し、動く」と基礎教育の過程で習った。
だから法術を使うものは一般人に比べ疲れやすいし老けやすい、と言われている。
私はどうなんだろう。老けて見えるのか、よくわからない。
「そうね、あの子も不思議なものを見ているらしい。霊能のセンスはあると思っているわ」
私の夢と共通の幻想を持っている時点で、何らかの霊能的なセンスは持っていると思っていたけど、ムラキには霊能のあるなしが一目でわかるらしい。
まぁ法術を扱う人間以外にも、当然霊能を持った人が、貴族や武家だけではなく一般人にもいるし、逆に呪物を持っていても霊能の才がないものもいる。そういう場合は近親の親族や近しい武家から養子を取るのだけど、それでも見つからない場合は一般人の霊能のあるものから養子を取ることもある。とにかく呪物は霊能の才能があることが大前提なので、霊能者の確保は兵士の家柄の必須事項とされている。
霊能は遺伝しやすいが、絶対に遺伝するものではない。確率は半分以下とされている。
だから、ムラナカの家でも、霊能のない姉のアヤメではなく、霊能があった妹の私に呪物を授けられた。それで祖父は武門の役割を私に、当主としての役目を姉に、と常々私たちに言ってきたし、わたしもそれでいいと思っていた。
兵士の家では呪物の「所有権」を重要視しており、「駒」である「法術師」と、「呪物の所有者」は区別されている。この場合、「駒」が私で、「呪物の所有者」は姉というわけだ。
私が死んだら呪物は回収され、姉の手に戻る、という具合になっている。
実際私が死んだら従者たちが呪物を私の体から取り出して、姉のもとに届けるだろう。それも従者の重要な役目だ。
ムラキは頷いて言った。
「最初反対しましたが、あれだけ霊能があれば使えますよ。サダメ様がむきになるから何事かと思いましたが、納得です」
なんかいい方向に解釈されてる。ぜんぜんそんなこと考えてなかったが、まぁそういうことにしとこう。
ムラキには霊能がある人物がわかるらしい。同類は同類がわかるのか。
私にはそこまで鋭く分析できないけれど。
霊能の世界には色んな視野やモノの見え方があるらしいから、それもムラキの異能の一つなのだろうと思った。
それからしばらく半時ほど進んだ後、「じゃあ、中休止にしましょう」と私は言った。アベがそれを従者に伝えると、「中休止ーーーー!!」と従者が叫んで、瑞葉家を乗せた馬車と私たちの乗った馬車が止まって、私たちは馬車を下りて草むらでまた休んだ。




