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今回の戦いでは目立って被害が出た。

従者と付き人105名のうち19名が死亡。

37名が重軽傷。


負傷者は澤山を超える前は故郷に置いてきたけど、これから先はそうはいかない。


重症者の従者のうち五名が数日の間に死亡した。


中には私に懇願して、即死させてほしいと頼む従者もいたので、希望を叶えてあげた。


こういう殺し方は、戦場とは違って悲しい気持ちにさせた。特によく顔を知っている従者を死なすのは、感情的に堪えた。


死傷者の中に兵士たちとクラベはいなかった。

兵士はともかく、クラベは若いから、武家としての資質を侮っていたが、本人曰く、不思議と戦場で傷を負ったことはないとのこと。


単純に運がいいと言っていた。


軽症者、といっても、中には骨折や、銃弾が抜けただけで出血のひどいものもいたから、命には関わらない、という程度で、近隣の村まで運ぶと金銭を配って医者と医務経験者を複数人手配させた。


一人でも死なないようにさせたいのは人として当然だし、兵士にとって従者は兵役だけでなく雑務全般もこなしてくれる自分の家の使用人のようなものだから、その身を守るのは当然の務めだった。


「死亡者が24名になりました。足が使えなくなったものが6名。戦場には立たせられません。傷のないものと回復が見込める軽症者が、75名です。うち大王家の付き人が18名なので、我々の従者たちで健全なものは57名になります。かなりの痛手です」


アベがそのように報告した。

こちらの従者の被害が大きい。

歩けなくなったものは今後荷車で連れて行くとして、彼らが身を守るための銃が欲しいところだ。


心理的に、襲われたとき丸腰じゃ辛いだろうし。大き目な都市に行ったら手配してもらおう。瑞葉様にお金を出してもらって。


「前回の兵賊の襲撃の中に兵士はいなかったね。様子見だったってことかしら? もう一度襲撃がある可能性もあるかもね」


アベが答える。

「一回の襲撃でこの被害は酷いですね。この先兵賊の襲撃が常にあることを考えると、何か対策を打たないと」


私は言う。

「本当は関東東部まで進みたかったけど、無理かもね。近場の都市に根を下ろすか…」


「近辺なら川神という都市があります。もっとも兵賊の支配下ですが」


しばらくこの集落に留まって周辺の兵賊と交渉するしかなさそう。

しかし賊は賊だし、できるなら交渉の相手にはしたくない。


関東の東部まで進めば治安のいい地域が増えるんだけどなぁ。


一人で考えるために、アベを下がらせた。

集落や都市までの道を、護衛隊を二つに分けて進ませたほうがいいかもしれない。


一つは金品や食料などの物資を護衛する輜重隊。これに兵士と従者を集中させる。


もう一つは瑞葉様を護衛する護衛隊。これには私と最低限の付き人だけを連れていく。


実際、戦闘になれば攻撃は私一人のほうが容易い。

付き人を大王の護衛につけて、兵賊への攻撃は私が担う、のほうが、被害が少なく、攻撃も効果的な気がした。


むしろその場合心配なのは輜重隊の方で、敵が精強な場合金品略奪の上全滅もあり得た。


やっぱりだめか、と頭を捻っているとき、クラベが近づいてきた。


「この辺の兵賊について、多少知っているのですが…」


という意外な話だった。


「どんな内容?」と聞く。


「兵賊の頭目の一人と友人です。ここから離れてはいるんですが、平園という街を管理しています。信頼できる人です」


私は疑念に思った。

「その兵賊を頼るということ?」


「はい、この辺りは兵賊たちがひしめいていますし、僕の友人の街なら、支配が確立しているので、同じ兵賊に襲われることもそうそうありません」


なんで従者に過ぎないこの子が兵賊と友人関係にあるのか疑問に思ったが、まぁ不思議な奴だし、そういう疑念は置いておいた。


本当に兵賊の頭目と交渉できるなら、願ってもない話だし。


「その兵賊と交渉できるの? こちらも譲れないところは譲れないよ?」


クラベは頷く。

「大丈夫です。平園への長期の滞在と、安全の保障程度なら、無償で引き受けてくれます」


「どういう間柄なの?」と続けて聞くと、「幼馴染で、友人です」と答える。そこには嘘や虚栄を張っているそぶりは微塵も見えなかった。


大丈夫なのかなぁ、と思いつつも、その様子を信頼することにして、「じゃあ、交渉のための騎兵を出すから、言伝は任せるよ。でも内容は確認するし修正もするからもちろん」と交渉の許可を出した。


そうして、兵賊との交渉のために、しばらくこの集落に留まることにした。



眠っている。今度は死んでなどいない。夢の中だとなんとなく朧げにわかる。子供のころの記憶を回想したような夢を見ていた。

森の中、私は一人で遊んでいる。一人、一人だ。

森の中には誰もいないのに、私は誰かに話しかけている。


「コカビエル様、コカビエル様、出てきて、私と遊んで」


母からもらったネコのぬいぐるみを持ちながら、私は空中に手を振って繰り返している。


「コカビエル様、遊んで、私と遊んで」


誰もいないはずなのに、私の後ろに髪が長く、黒髪で、黒い装束を来た女の人がたっていた。


「コカビエル様、きてー」


私はその姿に気づいて、両手を差し出す。黒い髪の女の幽霊は、なにか囁いていた。


なんて囁いたのだろう。記憶にない。


記憶の情景の中。私は彼女の言葉を聞こうと耳を澄ませた。


「黒目が勝って真っ暗になるころ、厄が来て暗闇を晴らす。預言者が予言する時期、警戒蟻の警告が始まる時。雲が群がって雨が降り始める。また国が一つ滅ぶ。これは定め。大いなる災厄と永遠の福音の前兆が、また繰り返される。今回の震動はなかなか大きいものがある。大丈夫、まだ来ない。死んだ魚が猫になったら、また予兆が進む。いいえ、それは破壊のようにではなく、病のように、衰退のように、来るでしょう」


「あはは、なにそれ」と子供の私が笑っている。黒髪の女は子供の私の頭を撫でて、消えた。


いつのころの記憶だろう。よく覚えていない。子供の私はぬいぐるみを手に振り回しながら、またコカビエルの名を呼び始めた。



いつからか呼ばなくなった。だんだん成長するにつれて、自分が呼んでいる存在が怖くなったからだ。


私は子供のころの懐かしい記憶に触れながら、集落の民家で目を覚ました。時、一瞬、民家の暗闇の隅に、黒い長髪の女の影が見えた気がした。


「コカビエル?」


しかしそれはすぐにいなくなって、気のせいなのかも、と思うことにした。


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