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夜になって、少し開けた森の打ち捨てられた神社の近くで夜明けまで休息することにした。私は夜目が効く、というか、夜目どころか目を閉じてても歩ける。しかし兵士たちはそうはいかないから、大休止をとることにした。
ここ連日兵士たちはほぼ不眠である。
あらかじめ休ませておいた従者の何人かを夜警に立てて、私も眠ろうかと考えていた。
するとクラベがまた以前の休止の時のように私のもとにやってきた。
「サダメ様。昨日戦闘で使った呪物。それデーモンの召喚ですね」
目が冴えているのか全然疲れてなさそうだし、なんだか楽しそうにすら見えた。
「なに、その名前」
クラベは答える。
「呪物の名前です。魔王が欲しがってた呪物、サダメ様が当たったのかぁ」
呪物には名前はないのだけれど。正式な名称についての文献は、古代に散逸したらしいので、呪物の能力と品級で識別するのが常だけど。
もちろん仮名はあるけれど、呪物に名前をつけるのはよくないことという迷信があったので、公式には呪物には名前はないものとされていた。
「私の呪物を知っているの?」
「知っています。呪物は黄昏の時代に、神々が自分たちの子孫が権力を持つように創作した遊び心ある兵器です。人間が神のようになるための、ホモ・ゼウス計画の一つの要素。それらの兵器についての知識をむかし、教えてもらいましたから」
神々、というのがなにを指すのかはわかりかねたが、呪物を兵器と呼ぶ向きもあることは知っていた。仮説だが。
そもそも呪物がなぜ創られ、なんのために残したのかについて、正確なところを伝える文献はない。
「そうなんだ。私の呪物はどんなものなのか知ってるの?」
クラベは答える。
「デーモンの召喚は神々の兵器の中でも最上位級です。理論上人でも動かせるけれど、実際に動かせる人はまずいないと言われているものの一つです。仮に稼働できたとしても悪魔を使役するのも難しいし、これを稼働させて悪魔と契約できる人間はまずいないだろうということで、使用難度においても最上級と言われている兵器でした」
まるで呪物自体をよく知っているような口ぶりだ。
クラベは続ける。
「デーモンの召喚は扱える人が皆無なので、兵器としては期待されていなかったんですけど、その防御機構の特性から重宝される代物でした。
遺伝子単位で宿主の体を正常な状態へと修復し続けるので、基本的に寿命がなくなります。身体的には死ななくなりますが、命は吸い取り続けるので、生命力がなくなったらその時点が寿命になります。生命力の弱い人では子供のうちに死にます。霊感の才能のある人でも成人は迎えられません。まさに悪魔に魂を売るという諺をもじった兵器なのです」
それはまったく聞いたことのない知識だった。なぜそんなことを知っているのだろうか。嘘だとしても私の呪物の特徴と特性をついているし、一定の信ぴょう性はあった。
私は相手に合わせて言う。嘘でも本当でも聞いてみたい。
「どおりで子供のころから疲れやすいわけだ。じゃあもうすぐ私は死ぬかもしれないってことかな。もう成人して25歳だから」
クラベは考える風をして言った。
「サダメ様の場合は大丈夫だと思います。サダメ様自身が命を周囲から吸い取っているようですし。ただし急激に命を失うと、さすがに死ぬかもしれませんね。無茶さえしなければ、もしかしたら永遠に死なないかも」
なぜか永遠の命を保証されている。身体的に修復されるからっていうことだろうか。この子の話はちょっと面白いと思った。
「わたし永遠に生きれるの? もう20超えてだいぶ老けてきたと思ってるんだけど」
クラベは不思議そうに言う。
「そうですか? 見た目は十代に見えますが。たぶん何十年たっても生きてさえいれば見た目はそのままですよ」
さすがにそれは嘘くさい。
この話がどこまで真剣で本当なのかわからなくなった。
「最上位ってことは、特品にあたる呪物ってことなの?」
今の話で気になっていたことを聞く。特品呪物の中に上位の存在を呼び出すモノがあるというのは聞いたことがないが、話の口ぶりから特品という風に聞こえた。
「現代の品級には該当しません。恐らく未発見の呪物とされているはずです。ただ、現代の特品の呪物より高度な兵器であるのは事実です」
例外というやつか。呪物の中には未発見だったり、知られていても行方不明なものも多々あるから、その中で品級がついてない未発見のものは例外と呼ばれている。
それは納得いった。祖父も私が生まれたころ専門家を呼んで調べてもらったらしいが、恐らく例外だろうという結論で終わったというのを聞いたことがある。
例外の呪物を鑑別する機構もあるようだが、祖父は断ったらしい。
心臓に呪物があるということは、それを鑑別するにはわたくしには死んでいただかねばならない。それはかわいそう。という親族の人道的な考えから、私は最初の死の危機を回避していた。
というか眠い。頭が回らない。クラベの話は興味深かったが、わたしはもう眠気の限界に近かった。
「教えてくれてありがとう。ところで、そろそろ休みましょう。明日は早いから」
クラベはハッと気づいたように言った。
「ああ、すみません、お休みのところをお邪魔して。僕も寝ます」
そういうとほかの従者たちが休んでいるところへ歩いて行った。
彼が去って、横になると、猛烈な眠気が襲ってきた。幸い透視もいまは発現してなくて、私はそのまま暗闇に落ちた。




