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森の中の道は地元の人々が利用していたのか、案外歩きやすかった。
ただ、その道は細く、護衛隊は一列になって進むしかなく、時間もなかったので、案内人を手配する暇もなかった。
ムラキとアベが持つ周辺の地図と、この辺の地形に詳しい従者たちが頼りだった。
私の前をアベが歩いている。私はアベに話しかける。
「この道は一本道なの? 敵兵がこの道を探し当てる可能性はある?」
アベが言う。
「いやー、従者の話では、この辺に幾つかある東部への獣道の一つだから、なかなかこの道に絞って追ってくることはないと思いますよ。この辺の地盤は固めだから、足跡を辿ってくるのも現実的ではありませんし。敵がこの道を追ってきたとしたら、超偶然か、何らかの霊能でしょう」
つまり敵軍がこの道を追ってくることはないと。
しかし北部のコウベ氏が土地を狙ってのことではなく、大王家を狙ってのことだったら、こちらが東部へ進路を変えただけで取り逃がすというのはあまりにお粗末すぎる。北部から軍を挙兵した以上、そのくらいは考えているはずだ。
相手がけもの道の存在を知っていた場合、複数ある獣道に兵を分散させて捜索するに違いない。
とりあえず向こうが知っている道という道に捜索の兵を出すはずだ。
私はアベに言う。
「いや、敵がこの道を追ってくる可能性は十分にあるよ。敵軍の規模はわからないけど、コウベ氏の軍勢であったら周辺一帯を捜索するに足るだけの兵力はあるから。そうはいってもこれ以上速く道を進むこともできないから、できれば、けもの道を逸れて、敵をかわしつつ、身を潜め、秘密裏に東側まで進みたいの」
アベは困ったように言う。
「森で道を逸れるのはやばいですよ。俺たち探検家じゃないですし、ほぼほぼ遭難します。それよりも東部へ確実に至るこの道を確保しながら、敵の追撃を迎撃する布陣にしたほうがいいです」
確かに食料の備蓄はあっても水はそれほどない。途中の川や井戸で調達する予定だったし、コウベ氏の領地に入れば補給できると思っていたからだ。
その頼りにしていたコウベ氏に裏切られたのだから、当然頭にくる。
もう一戦くらいやりあってもいいかなという気分になってきた。
「後列に私とササキが行くから、アベとムラキは従者たちを先導して、導いて。敵が追いついてきたら私たちで対処するから、何かあったら支援に駆けつけずその場に留まって瑞葉様を守護して」
アベは言う。
「了解しました。ムラナカ様がお嬢様を護衛に選んだのは正しいですね。他の法術師を選んでいたらもうとっくに全滅してますよ」
私はちょっと得意げになる。
「わたし頭には自信ないんだけど」
アベは即答する。
「いえ、知能面より、法術が凄すぎて。兵士のいない斥候でも騎兵中隊まるまる一個を一人で全滅させてますし。一品の法術師どころか特品でもなかなか聞いたことのない話ですよ。もうこの周辺の国々で最強では」
私はさらに得意げになる。
「上には上がいるものだよ。次は大隊規模でも全滅させようかな」
アベは笑って言う。
「恐ろしい」
優秀な呪物ほど命を吸うから、一品の呪物を扱える術師は列島でも数十人ほどしかいない。
まして特品の呪物ともなれば、扱える人々は恐らく世界全体で百人もいないだろうと言われていた。
私の呪物は二品等だが、それでも兵士の中では稀な存在で、しかも二個目の呪物も移植している術師はあまり聞いたことがない。
左腕に仕込んだ二品等の呪物より、心臓に先在してあった呪物のほうが、体感で圧倒的に命を吸われるから、もしかしたら一品以上の呪物かもしれないと考えると、実は本当にこの周辺では最強の法術使いかもしれない。生きた人間をそのまま天国に連れていく、というコカビエルの術自体とんでもないし防御しようがない。要するに宇宙に放り捨てるのだ。生きたまま。残酷すぎるので、あまりその後の彼らについて考えないことにしている。
心臓の呪物の法術は、恐らく上位の存在の召喚がすべてで、その上位の存在が協力してくれるかどうかは自分にかかっている。
コカビエルを始め、召喚で協力してくれるのはいまのところ三体しかいない。そのどれも一歩間違えれば自分も殺されかねないような存在だから、非常に緊張感と恐怖があった。
コカビエルが一番付き合いが長いから、呼びやすいのだけど。
私とアベはそれぞれ逆方向へ道を進んで、後列と前列をそれぞれ指揮することにした。




