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6「誰にでも優しい君が、誰にも興味がないことを、誰であろう僕だけが知っている」


***


 未確定の現状を肯定するひなせの感覚は、多くの人の気持ちを和らげた。彼女の高貴さを物語る哲学であり、最も具体的な慰めでもあった。


 ひなせはそうやって知識を切り売りして、人の心を鎮めていった。


「傷ついたことがないんじゃない?」


 僕は、ひなせと喫茶店で対面していた。目をめぐらせて、ひなせは考えるふりをした。


「傷だらけだけど、痛くないんだよね」


「麻痺しているってこと?」


 ひなせは、意図して考える時間を設けた。


「その感情機構を、私は後づけした。霞には最初から備わっているの?」


 僕は少し考えた。悲しみがあるはずのところに悲しみが備わっていないのは、よほど悲しいことだ。とてもかわいそうだし、損なわれているような気がする。


「最初から備わっているよ」


 僕は言った。


「だとしたら、それでいいと思う。私は自分に備わっていない感情機構がないことを、損なわれたとは思いたくないから」


「誰かを傷つけたとしても?」


 ひなせはくすくすと笑った。


「言葉で傷つくことなんてないよ。単に少し、疲れるだけだよ。少なくとも私にとって言葉は、不完全な伝達手段でしかない。意味と記号で片方が欠落していたら、私はそこから感情を抽出することはないよ」


「怒りや悲しみを知らないってこと?」


「ほんとうの怒りや悲しみって何? そういう振る舞いってだけでしょ?」


 僕はその言葉の意味はよくわかった。でも、本当の感情に到達できない感覚は、たぶんひなせが言っていた、割合の問題なのだ。百感情を知っている人はいない。でもひなせもゼロではないはずだ。


「それも一つのスタンスでしょ? わかっているのに、わかっていないふりをするのは」


「感情は、私にとっては記号ではないから。何かわからないものから、わからないものへ移行させる手続きは、いつもいつでも『柔らかい』まま、私のブラックボックスになっている。ラジオのナレーションに、感動することがないのは、私だけだとは思わないけど」

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