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5「誰にでも優しい君が、誰にも興味がないことを、誰であろう僕だけが知っている」
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ひなせは、きっと昔に多くのことを懐疑して否定して相対化したのだろう。それから逆に、肯定することで自分を再構成した。対象化すると簡単だけれど、そんなことでひなせを表現できるとも思わない。
無謀で向こう見ずなタイプではないのに、理論は勇敢で積極的だ。彼女は何かを証明することには無頓着なのに、何かを想像することには命をかけている。
その想像力はもっぱら人間関係に適用されていて、それが僕には実に滑稽に思えた。
彼女は他人に興味がないということを、自分に言い聞かせている。そのために人に優しくする。まるで首尾一貫していないと「気持ちが悪い」とでも言うように。
物語は物語のために筋を作る。ひなせは、この世界が逸脱のない意味に包まれていて、首尾一貫していると思っているはずだ。
「ひなせだって、恋愛はするでしょ?」
「恋愛の形に優劣はあるかな?」
ひなせは僕に聞いてきた。「良い恋愛と、悪い恋愛があると思う?」
「あるよ」
「私はないと思う。恋愛は空気のように地上には遍在しているから」
「つまらないと思わない?」
「思わない。そういうゲームのルールだから。つまらないとするなら、人生を歩むのに不適格でしょうね」
「不適格な人、多くない?」
「少なくとも、私は恋愛するのは好きだし、それを楽しむこともできる。霞は?」
「文学の中の話だと思っている」
「つまり私と同じで、わからないんでしょ?」
「わかるとわからないの境界ってなんだろう?」
「少なくともそこに境界はないよ。わかるのは確率や割合でしかない。何割わかっていて、何割わかっていないみたいな、汽水域のようなもの。確証を得たいと思ったら、んー、何をすればいいのかな。私は確証を得たいとは思わないし、それはこのゲームをとてもつまらなくさせる気がする」
「恋愛についても同じ? ゲームだと思う?」
「一面的にはね。特別でないものを特別だと言うことに私は抵抗がある」
「なんで、ひなせは、恋愛をするの?」
「理由はないよ。意味づけする必要を感じない。呼吸と一緒」
「それは、嘘じゃない?」
ひなせは笑って首を振った。
「答えがない問題を考え続けることはできない。答えは暫定的なものにならざるを得ないし、知ったところで意味はない。知ることは、諦めることとほとんど一緒だから」




