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3「誰にでも優しい君が、誰にも興味がないことを、誰であろう僕だけが知っている」
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誰も、ひなせの本当を知らない。
彼女が何を考えて、何が好きで、何が嫌いで、なぜ生きるのかを理解した人はいない。
でもわかることは、ひなせはそれぞれの「何」や「なぜ」といった疑問を、一抱えも持っていないということだ。
答えは最初から彼女に埋め込まれている。
それを切り出して、人を癒す。
「どうでもいいんだよね?」
「厨二みたいにカッコつけるならね」
「それ以外の言い方があるの?」
「興味がない。だから深く潜れる。自分の中の何にも、抵触しないから。コードの系統が人と違うの。エジプト文明と黄河文明ほどにね」
「そんなふうに切り出していいの?」
「ん?」
「ひなせの秘密じゃないの?」
「そんなこと、本当になんでもないよ」
「ひなせにとっての特別って何?」
「そんなのないよ」
ひらひらと手を振って笑う。「あえていうなら、私っていうのは、私の言葉であり、私の声であり、私の書いた文字であり、目の前にいる人の笑顔だと思う」
「つまり?」
「『私』という相は、私には備わっていないんだよ」
「他の人には備わっていると思う?」
「思う。だからいつも、私は何か欠けているような気がする」
「気のせいだよ」
ひなせはそれを聞いて首を振った。
「そうだとしたら、損なわれ過ぎているよ」
「それは、人を見下さないための方便なんじゃない?」
僕の目配せに、ひなせはくつくつと笑った。
「蔑んでいるわけじゃないよ。でも、仮定が間違っているとしたら、それは私にとっては一つの答えにつながる」
「答え?」
「人間性を取り戻すためのレースに勝つこと。それが私にとっての人生の意味だから」
「こわ。壮大だね。常に人類の先頭に立つってことでしょ?」
「控えめに言えばね」
「遺伝子を編集すれば、僕たちは不死になれるのかな?」
「なれないと思う」
「なんで?」
「不死という概念を、不死者はいつになったらわかるの? つまり、そういうこと。終わりを決定する時は、全てが終わっている時だけ。それにしても面白い誘導ね」
「人間は人間になることができない」
「でも私は常にもう一人の私を知っている」
「どういうこと?」
「すごく強引に階級化すれば、上層の私は下層の私を。下層の私は上層の私を。かなり詳しく知っていると思う」
「そういうふうに階層化されていることを以て、ひなせは人をわからないと言う」
「そうかもしれない」
「ひなせのように、人は自分の中に自分を持たない。理解は、ひなせの中では相互作用だってこと」
「違う生物なのかもね」




