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3「誰にでも優しい君が、誰にも興味がないことを、誰であろう僕だけが知っている」


***


 誰も、ひなせの本当を知らない。


 彼女が何を考えて、何が好きで、何が嫌いで、なぜ生きるのかを理解した人はいない。


 でもわかることは、ひなせはそれぞれの「何」や「なぜ」といった疑問を、一抱えも持っていないということだ。


 答えは最初から彼女に埋め込まれている。


 それを切り出して、人を癒す。


「どうでもいいんだよね?」


「厨二みたいにカッコつけるならね」


「それ以外の言い方があるの?」


「興味がない。だから深く潜れる。自分の中の何にも、抵触しないから。コードの系統が人と違うの。エジプト文明と黄河文明ほどにね」


「そんなふうに切り出していいの?」


「ん?」


「ひなせの秘密じゃないの?」


「そんなこと、本当になんでもないよ」


「ひなせにとっての特別って何?」


「そんなのないよ」


 ひらひらと手を振って笑う。「あえていうなら、私っていうのは、私の言葉であり、私の声であり、私の書いた文字であり、目の前にいる人の笑顔だと思う」


「つまり?」


「『私』という相は、私には備わっていないんだよ」


「他の人には備わっていると思う?」


「思う。だからいつも、私は何か欠けているような気がする」


「気のせいだよ」


 ひなせはそれを聞いて首を振った。


「そうだとしたら、損なわれ過ぎているよ」


「それは、人を見下さないための方便なんじゃない?」


 僕の目配せに、ひなせはくつくつと笑った。


「蔑んでいるわけじゃないよ。でも、仮定が間違っているとしたら、それは私にとっては一つの答えにつながる」


「答え?」


「人間性を取り戻すためのレースに勝つこと。それが私にとっての人生の意味だから」


「こわ。壮大だね。常に人類の先頭に立つってことでしょ?」


「控えめに言えばね」


「遺伝子を編集すれば、僕たちは不死になれるのかな?」


「なれないと思う」


「なんで?」


「不死という概念を、不死者はいつになったらわかるの? つまり、そういうこと。終わりを決定する時は、全てが終わっている時だけ。それにしても面白い誘導ね」


「人間は人間になることができない」


「でも私は常にもう一人の私を知っている」


「どういうこと?」


「すごく強引に階級化すれば、上層の私は下層の私を。下層の私は上層の私を。かなり詳しく知っていると思う」


「そういうふうに階層化されていることを以て、ひなせは人をわからないと言う」


「そうかもしれない」


「ひなせのように、人は自分の中に自分を持たない。理解は、ひなせの中では相互作用だってこと」


「違う生物なのかもね」

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