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2「誰にでも優しい君が、誰にも興味がないことを、誰であろう僕だけが知っている」
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ひなせと僕が仲良くなったのは、そのやりとりをしてからだった。お昼を一緒に食べたり、休日に遊んだりして、交流を深めた。
ひなせがそういう傾向を強めたのは、高校時代から続く読書が理由だという。
読書の知識を継ぎ足し継ぎ足しで、無計画に取り入れて心裡に作った構造物そのものが、ひなせだと、ひなせは自分で言っていた。
小柄で、明るく、髪は黒い。胸は薄く、化粧は軽めだ。
職場での振る舞いはエース・オブ・エースで、誰もが彼女を好いている。同僚と連れ立って遊びに行くこともあり、僕もその仲間の一人だ。
とはいえ浮いた話は聞かない。
それには明らかな理由があって、もうすでに誰かと「契約」しているという推理を、僕は働かせている。
私服で集まるとその優れた服飾のセンスに脱帽する。シンプルだし、押しつけがましくない。人に違和感を感じさせない。高いものだろうけれど、主張を控えている。
エースでいることには自覚的で、仕事を、ザクザクこなしていく。仕事に給料はまず見合っていない。
誰もが彼女を頼り、彼女は適切なペース配分で仕事を片づける。
「誰にも興味がないっていうのは、一つの誠実さな気がする」
僕はひなせに言った。
「そうかな。人間的ではないよね」
「人間の模範は、時代によって変わるから。それに、感情って後天的に身につけるものだと思う」
「それは、私もしばしば思うけど、心を失うのも後天的なものじゃない?」
「何かきっかけがあって?」
ひなせは笑った。恥ずかしそうに。でもそれも、彼女にとってみれば演技なのだろう。
「平野啓一郎の小説に出てくる人みたいに、特殊な傾向を抽出して結晶化させた人格は、実はよくあるのかもしれないとは思うよ。きっかけね。私は言葉を信用していないのかも。言葉で理解できる領域の外に出られないことが、言葉を信じていない理由」
「哲学に毒された?」
「それもあるかもね」
「ひなせは、何のためにコミュニケーションするの?」
「目的はないよ。あえていうなら快適に生きるため。周りの人を快適にすることは、一つの生存戦略だから。それって一つの目的な気がするって人もいそうだけど、目的の中に目的が埋め込まれている構造は、明確な論理関係を持たない」
「言葉遣いで、ひなせの右に出るものはいないのに?」
「霞にそれを言われたくない」
ひなせの切り返しは、丁寧でサービス精神に満ちている。




