災いの元
帰りの車の中。カーラジオから流れていたポップミュージックが突然止まり、地震速報が始まった。
ここから遠く離れた土地で震度5の揺れだという。結構揺れたな、と思いつつも、所詮は「対岸の火事」そう思った。
ここが大地震に見舞われた時。ここから遠く離れた土地の人々の多くが、やはり同じように思っただろう。不謹慎でも何でもない。ヒトとはそういうものであり、「対岸の火事」はあちらからこちらへ、ピンポン玉のように行ったり来たりするだけの話だ。
轟音。夜が特大の雷鳴により昼間のように明るくなる。深夜だろうが田圃はどこまでも広がっているし、近くの山はやはりいつもどおり聳え立っている。音もなく、物凄い稲光と共に雷が落ちた。遠くの集落で。あの辺で停電が起きてもおかしくない。我がアパートは大丈夫だろうか?雨が降ってきた。一刻も早く帰らねばならない。しかし、飼い犬が怖気づいて丸くなり、岩のように一歩も動こうとしない。いくらリードを引っ張っても無駄である。困った、いっそのこと見捨てるか、そうこうするうちに雨が強まってきた。
・・・天窓からビュウビュウ風が吹き込んでくる。ゴロゴロ雷が鳴りザアザアの土砂降り。一粒の水滴が頬を濡らした。起き上がって天窓を閉める。7:30。
深夜の雷雨の中でイヌの散歩をするという、夢をみていたようだ。実際は遅くまで酒を飲み酔いつぶれていた。とっくに朝だが夜のように暗い。この頃は毎朝のように土砂降りになる。バカみたいに暑かった夏が終わるのだろう。イヌを飼いたい願望はある。実家でイヌを飼ってくれればしょっちゅう遊びに行くのだが。親は夜中にネコの散歩に行く。実家には15年生きているネコがいる。イヌを飼うのを提案したが、やはり断られた。
炊飯器で飯を炊く。飯を三等分し器によそう。炊飯器のコンセントを引き抜くと小さな稲光が発生した。スパークしたのだ。いつか感電するかもしれない。それでも飯を食わないわけにはいかない。
収穫の近い、黄金色に染まった田圃道を走っていると、向かいから救急車がやってきた。減速して車を一時停止する。発進しようとしたら遅れて救急車がやってきた。どこかで火事が起きたらしい。この片田舎では、古い家屋、特に納屋から出火することが多い。年代物のコンセントから漏電するのだ。実家にも古い納屋があって、そこには見たこともないような古めかしいコンセントが備え付けられている。大丈夫だろうか。親が高齢という事もある。
アパートに戻る。部屋の中はコンセントだらけ。掃除をロクにしてない、タコ足配線でブレーカーがよく落ちる、炊飯器のコンセントがスパークする。戦慄した。気をつけなければならないのは私の方だったのだ。
病院に行った。アレルギー薬を貰いに。15年前、仕事のストレスでアレルギーを発症した。あれから毎日アレルギー薬を服用している。
「この前の結果だけど」対面した医者は語気を強めた。15年前、若かった私はすっかりオジサンになった。医者はずいぶん白髪が増えた。当時オジサンだった彼はオジイサンの域に達している。「尿酸の数値が上がっているね、薬多めに出すから」、「ハイ、スミマセン」。こうして診察は終わった。当初はアレルギー患者だったが、今では痛風患者でもある。アレルギー薬と尿酸を下げる薬を一緒に服用している。酒が原因なのは間違いない。それなのに昨夜も飲んでしまった。災いでも何でもない、ただの自業自得である。
病院を出る、空がスカッと晴れ渡っている、とても気分が良い。あと二か月は心配がない。薬が切れるまでの間。