いつもと違う誕生日~トライアングルレッスンB~
久し振りのカラオケは、とても賑やかだ。友人達が歌っているのを聴いて、時々自分も歌い、注文したお菓子を摘まむ。
楽しい時間のはずなのに、私・ゆいこは少しだけ物足りなさを感じていた。
今日は私の誕生日。放課後、そのお祝いに友人数名でカラオケに来ていた。当然のようにひろしとたくみもいるのだが、二人共歌いもせずに隅の方で飲み食いしているだけ。
いつもなら、二人して朝一番を争う勢いでお祝いの言葉とプレゼントをくれるのに、今年はまだどちらもなかった。
今日、私は日直当番で忙しかったし、休み時間は他のクラスメイトからお祝いを言われていたりしたから、中々二人と話す機会がなかったのは事実だ。別に、毎年何かを貰えると期待しているわけでもない。それでも、やっぱり「おめでとう」の一言くらいは欲しいと思ってしまう。
(……ていうか、私、二人に何かしちゃったかな)
ここまでくると、知らず知らずの内に二人を怒らせるようなことでもしてしまっただろうかと心配になってくる。しかし、ここ数日の出来事を思い返してみても、それらしい覚えはない。
そもそも昨日の帰りも二人と一緒だったが、普段通りだった――と思う。
正直なところ、二人とはきょうだいのように育ってきた仲なので、失礼なことをするのもされるのも日常茶飯事だから、些細なことは遺恨どころか記憶にすら残らない。
楽しい気持ちの片隅に薄暗さを抱えながら時間は過ぎていき、やがて祝いの席はお開きとなった。カラオケの前で解散すると、私とひろし、たくみだけが残される。
そうだった。帰る方向が同じなのは、このメンバーだけだった。
「じゃ、じゃあ、帰ろっか」
なんとなく気まずい気持ちを消そうと敢えて明るい声を出したが、意識するあまり少し上擦った。
しかし、二人は気にする様子もなく「ああ」と返事をして歩き出す。
普段なら、たくみがどうでもいい話をして、私がそれに便乗し、ひろしが頷きながら聞いてくれる。そんな風に賑やかなはずの道中は、今日は静かだった。
私から口火を切ろうと思っても、重い空気に気が引けてしまう。本当に何かしてしまったのではとぐるぐる考えていると、不意にたくみが「わー!」と大声を上げた。
「び……っくりした。え、急に何?」
「あー、もう限界! 全然思いつかないけど、良いよな、ひろし?」
「――ああ」
ひろしが溜め息混じりに頷いた直後、たくみが私の手を掴んで駆け出した。
「ちょ、ちょっと! 何処行くのよ!?」
「良いから、黙ってついてこい!」
後ろを振り返ると、ひろしも後から走ってついてきている。
一体何だというのかさっぱり分からないが、暗くなりかけた道を三人で駆け抜けるのが昔みたいで楽しくて、私は自然と口元に笑みを浮かべていた。
間もなく辿り着いたのは、たくみの家だった。そのまま玄関に飛び込んで、おばさんへの挨拶もそこそこに二階にあるたくみの部屋に向かう。
扉を開けた瞬間、私は思わず「わあ」と声を上げた。
いつもはモノクロな部屋の中が、今はカラフルに彩られている。棚や机に折り紙で作った飾りが貼られ、中央のテーブルには三角帽子やクラッカーが並べてある。
そして、壁の一番目立つところに『ゆいこ たんじょうび おめでとう』と折り紙を切り抜いた文字が飾られていた。
「「おめでとう」」
揃った声に振り返ると、ひろしとたくみがホールケーキを手に立っていた。
「本当は、もっと驚くようなサプライズをしたかったんだけど……」
「二人の頭で考えても、中々思いつかなくてな。ぎりぎりまで考えようと粘ったんだが、結局、これが限界だった」
やや拗ねたようなたくみと、申し訳なさそうに苦笑するひろし。どうやら今日一日の二人の様子は、私へのサプライズを考えていて余裕がなかっただけのようだ。
私の為に頑張ってくれた二人も、見当違いのことを思って気落ちしていた自分も、なんだかおかしくてくすくすと笑ってしまう。
「充分だよ! ありがとう!」
それから三人でしたお祝いは、今までのどんなパーティーよりも楽しかった。