第6話 甘い罠 ポンジスキームに潜む影
サクシュの町で影のフィッシャーを撃退し、住民の資産と情報リテラシーを守った俺たち勇者パーティー。
町は活気を取り戻し、副業や投資で地道に資産を増やす者が増えてきた。
勇者一行は「堅実こそ最強」を合言葉に、魔王ジミン討伐の道を一歩ずつ進んでいた。
――
そんなある日、町の広場に突如として現れたのは、
金色のローブをまとい、まばゆい笑顔を振りまく謎の男――その名も「ミスター・ポンジ」。
「みなさーん!夢のような投資話、聞いていきませんか?
たった一口10万ベルで、毎月2万ベルの分配金!
しかも紹介すればするほど、あなたにも報酬が!」
「な、なんだこの怪しいテンション……」
俺は眉をひそめたが、町の人々は目を輝かせて群がっていく。
「このゴールデン・ピラミッド・ファンドに投資すれば、あなたも明日から不労所得生活!
紹介者ボーナスで資産倍増!夢の不労所得生活ももすぐそこ!」
「うさんくさっ!」
ブリジットが即座にツッコミを入れるが、
「でも、毎月2万ベルって……俺のパン屋のバイトより全然いいじゃん……」
ハイレが思わず呟き、
「ブログで紹介したらアフィリエイト報酬も……」
ブリジットも一瞬だけ心が揺れる。
その時、ランスが冷静に口を開いた。
「これはポンジスキームだ。
新規参加者の資金を使って、既存投資家に分配金を払う。
実態は投資ではなく、資金の回し合い。
最後にババを引いた者が、すべての負債を背負うことになる」
「でも、みんな儲かってるって言ってるし……」
ハイレがパンフレットを見つめる。
「それは今だけ。最初は配当が出るけど、
新規参加者が減った瞬間、全員の資産が消し飛ぶ。
しかも、紹介者ボーナスで友達や家族まで巻き込むのが一番危険だ!」
ランスが真剣な顔で言う。
だが、町の熱気は止まらない。
「俺も投資した!もう3回分配金が来たぞ!」
「紹介したらボーナスが入った!これは本物だ!」
「今入らないと損だぞ!」
そんな声が広場に渦巻く。
「オルカ、どうする?」
ハイレが不安げに尋ねる。
「俺たちは絶対に手を出さない。
でも、このままじゃ町中が負債のピラミッドに飲み込まれる……」
俺は決意を固めた。
――
その夜、俺たちはゴールデン・ピラミッド・ファンドの実態調査を始めた。
ランスはネットの口コミや運営会社の情報を調べ、
ブリジットはSNSで被害者の声を集める。
ハイレはパン屋の常連客に話を聞き、俺は広場でミスター・ポンジを観察した。
「やっぱり、分配金の原資は新規参加者の出資金だけだ」
ランスが証拠の書類を突きつける。
「運営会社の登記もペーパーカンパニー、代表者は偽名、所在地もバーチャルオフィス」
「SNSでも突然分配金が止まったとか紹介した友達に絶交された、って声が増えてるわ」
ブリジットがスマホを見せる。
「パン屋の常連さんも紹介ノルマで友達を失ったって……」
ハイレがしょんぼりする。
――
翌朝、広場では分配金が振り込まれない!と騒ぐ人々が溢れていた。
「俺の10万ベルが消えた!」
「紹介した親戚に恨まれてる!」
「運営に連絡がつかない!」
町は一気にパニックに陥った。
その時、ミスター・ポンジが正体を現す。
金色のローブがはじけ飛び、中から現れたのは巨大なピラミッド型の魔物――
ポンジスキーム・シャドウだった!
「お前たちの欲望と資産を、すべて吸い尽くしてやる!」
魔物の声が響き渡る。
「くっ、来やがったな……!」
俺は剣を構え、仲間たちも戦闘態勢に入る。
ポンジスキーム・シャドウは、
高配当の幻影をばらまき、町の人々を再び誘惑する。
「今なら間に合う!投資すればすぐに取り戻せる!」
「紹介すればするほど得をする!」
幻影に取り憑かれた人々は、資産どころか心まで吸い取られていく。
「オルカ、どうする?」
ハイレが叫ぶ。
「まずは幻影を断ち切る!」
俺は剣を振りかざし、
「これはリテラシーの一閃だ!」
魔物の放つ高配当の幻影を斬り裂く。
「ブリジット、SNSで警告を拡散だ!」
「任せて!ポンジスキーム注意報をトレンド入りさせるわ!」
ブリジットは必死にブログとSNSで情報を発信する。
「ランス、魔物の弱点は?」
「ピラミッドの頂点――紹介者ネットワークだ!
そこを断ち切れば、負債の連鎖が止まる!」
「ハイレ、パン屋のバイトで鍛えた機動力で、幻影の中を突っ切って!」
「任せろ!俺のパン配達ダッシュを見せてやる!」
ハイレが幻影の中を駆け抜け、ピラミッドの頂点に飛び乗る。
「これが俺たちの堅実投資魂だ!」
俺は剣を振り下ろし、ハイレと一緒にピラミッドの頂点を叩き割る。
ピラミッドは崩れ落ち、ポンジスキーム・シャドウは断末魔の叫びを上げて消滅した。
町の人々の目が覚め、
「俺、なんであんな話に乗ったんだ……」
「紹介した友達に謝らなきゃ……」
「やっぱり地道が一番だな……」
と呟き始める。
「やった……!」
俺たちは互いに顔を見合わせ、安堵の息をつく。
「でも、甘い話には必ず裏がある。
資産運用も副業も、リスクとリターンを見極めて、地道に積み上げるのが一番よ」
ブリジットが真剣な顔で言う。
「俺、もう紹介ノルマとか絶対やらねぇ……」
ハイレが苦笑いする。
「これからは、情報リテラシーと堅実な資産運用を武器に進もう」
ランスが決意を新たにする。
こうして俺たち勇者パーティーは、
ポンジスキームの甘い罠を打ち破り、
資産と負債、そして欲望の恐ろしさを町の人々と共有したのだった。
魔王ジミン討伐への道は、まだまだ続く――。