最終話 資産武道会 決着!──FIREへの道が開かれる時
資産武道会 決勝戦 〜ランスVS緋の侍フリー〜
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あいつは……ランスは、あの日からずっと変わらなかった。
どれだけ俺が周りに流されて意見を変えても。
どれだけハイレが無茶なレバレッジでギャラリーを沸かせても。
どれだけブリジットが節約や副業に注力しても――
「俺は、世界を買う」
そう言って、あいつはただ黙々と積み上げてきた。
……今だけは、祈らずにいられなかった。
(頼む……勝ってくれ。届いてくれ……!)
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「さあ!! 始まりましたァァァ!! 資産武道会・決勝戦ッ!!」
「 全世界株式インデクサー、ランス!!」
「投資界の幻影、緋の侍こと……フリー!!」
「試合開始!!」
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「まず先に動いたのはランスだァーーーッ!!」
ランス「喰らえ……! 積立奥義【全世界株式スプレッド・ブレイク】ッ!!」
──ズォォォン!!
足元から地を這うように拡がる、輝く投資マップの魔法陣!
その範囲は全大陸に及び、世界を覆う光の奔流がフリーを包み込む!
マルサ「出たァァァ! 世界を股にかける分散投資スキル!!」
「これは世界の全地域を同時に叩き込む、超王道型パッシブラッシュだァッ!!」
オルカ(!?……あれは俺が以前組み手の時にに喰らったやつだ……ダメージは地味に見えて、あとから指数のダメージが伸びてくる!!)
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ランス「さらに重ねるッ! 積立の真骨頂、時間の刃……!」
ランス「【ドルコスト平均法・タイムシフトオーバードライブ】!!」
──ギュゥゥゥン!!!
複利の奔流が、時の波となってフリーへと迫る!
マルサ「出たーッ!! 積立戦術最大の切り札!
価格変動を味方に変えるーーーッ!!」
オルカ(よっしゃ! 決まった……!)
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……爆音も、エフェクトも、フリーには届かなかった。
光の中、彼は――微動だにしない。
ランス「……なぜ避けない!?」
マルサ「なんということだァァァ!? 緋の侍、まさかのノーガード……!!」
「インデックスの時間刃を、まるで風のように受け流しているッ!?」
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オルカ(……いや、違う……違うぞ、あれは避けてるんじゃねえ……)
(……流してる……俺たちの資産攻撃を、まるでリターンの一部みたいに……)
「!?……まさか、あいつ……」
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フリーが、目を開いた。
フリー「……では、収穫の時だ!」
その瞬間、観客席の一部で叫び声が上がった。
「うわっ!? なんだこの通知!?」
「えっ!? 私の地方起業ファンドが黒字化してる!!」
「俺のファンド、配当来た……えっ、嘘だろ……!?」
マルサ「な……なんだこれはァァァ!? 会場の観客資産に一斉収益化の波!? いったい何が起きているッ!!?」
オルカ(まさか……まさか……いや、あり得るのか!?)
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フリー「この大会の運営資金、その原資がどこから来ているか……君たちは考えたことがあるかね?」
フリー「この闘技場も、スポンサーも、そして……君の成長すらも」
フリー「すべて、私のファンドのリターンの一部だ」
――会場、沈黙。
マルサ「な……なにィィィ!? 大会そのものが……彼の社会投資案件だったというのかァァーーーッ!!?」
オルカ(嘘だろ……俺たち、最初から……全部、あいつの資産の中にいたのかよ……!?)
……どんな敵でも、ランスは積み上げで超えてきた。
派手さはない。でもブレない。地道に、まっすぐ、インデックスで。
けど今、あいつは立ち尽くしてる。
目の前の男は、世界に投資したんじゃない。
世界ごと創ったんだ。
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フリー「……君の投資は間違っていない。むしろ、私の期待以上だった」
「だからこそ教えよう。世界の根幹にある真の資産とは……」
フリーの周囲が、黄金の輝きに包まれていく。
マルサ「こ、これは!? 彼の資産ゲージが……暴走的に上昇していくゥゥ!!」
「何だこの数字ッ!? 計測不能!! ゲージの限界を超えてなお上がり続けているぅぅぅ!!」
フリー「信用だよ。積み立て、リターン、再投資――その繰り返しの果てに、私は信頼を得る者となった」
「人が動き、社会が育ち、国が変わる。私はただ、それに投資してきただけだ」
「資産とは他者の未来を信じる力だ。――それが、信用の本質だ」
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ランス「……完敗、です」
静かに、ひざをつくランス。
マルサ「おおおおおっとぉ! ランス、完全敗北!!」
「資産ゲージ、ゼロには至らずも! フリーの規模と信用の暴風を前に……降・参ッッ!!」
オルカ(くそっ……負けた……けど、なんだ……この清々しさは……)
ブリジット「いい顔してるわね、ランス……!」
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フリー「この大会は、終わりではない。私が見たかったのは、始まりの兆しだ」
「君たちのように、地道に積み上げる者が現れるか。社会を信じ、世界を信じる者が現れるか。それだけを、私は確かめたかった」
ランス「……俺も、いつか……あなたのように」
フリー「そうなる必要はない、君には君の未来がある。いつかきっと、魔王にも辿り着けるはずだ!」
そう言い残し、フリーは賞金も、称号も辞退して
会場から、まるで風のように消えた。
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長老A「しょ、賞金はどうするのだ! 大会優勝資格も辞退!?」
長老B「いやいやいや、もしかしてあれすら投資の一環か!?」
長老C「ギルド、利用されただけでは……?」
そこへ、ランスが一歩前に出る。
ランス「僕たちは、利用されたとは思っていません。むしろ、支えられていたと感じています」
「この大会で得たのは、金じゃない。信頼と経験です」
「僕たちはまだ、旅の途中なんです。資産で人生を自由にする世界を、作るために」
観客席がどよめく。
「……俺も、また始めてみようかな」
「昔は積立なんてバカにしてたけど……やってみるか」
「投資って……こんなにも壮大な、物語だったのか……!」
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朝焼けの道。4人は荷物をまとめて、再び歩き始めていた。
ハイレ「なーんだよ、せっかくギルドに認められんのかと思いきや、また旅かよ〜!」
ブリジット「でも……負けたのに、変な達成感があるわね」
オルカ「さて、次に目指すのは……新興市場の城塞ってとこか?」
ランス「行こう。俺たちの旅はまだ終わっちゃいない」
そのとき、丘の向こうに、一瞬だけ風が吹いた。
風の中に立つ、赤い影――
緋の侍フリーが、一瞬だけ振り返り、静かにうなずいた。
次に交わるのが、戦いか――それとも共闘か――
まだ、誰にもわからない。
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「積み立ては、地味で目立たない。
指数は、すぐには動かない。
だけど……俺は信じてる。
この小さな積み重ねが、世界を変える日が来るってことを。
いつか、きっと――」
「それが、FIREってやつなんだろうな」
⸻完⸻
【投資勇者 資産運用RPG FIREへの道】
〜全世界株でコツコツ資産を積んでいたら、いつの間にか英雄扱いされてた件〜
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。
しばらく構想を練った後、新しいものも書こうかなと考えています。
よろしければそちらもご期待ください。




