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第38話 資産武道会 準決勝2.1 ランスvsブリジット 前編

天に響く鐘の音が、決戦の幕開けを告げる。

城壁の上から差し込む夕陽が、リングを黄金色に染めていた。

観客たちの視線が一斉に集まり、歓声とざわめきが会場を包み込む。

その熱気と緊張は、まるで魔王討伐の直前のようだった。

リング中央に立つランスは、動じることなく魔導書を手にしている。

その瞳には、次戦をも見据える冷静な光が宿っていた。

細身ながらも芯の通った立ち姿は、まさに全世界株インデックスの安定感そのものだ。

対するブリジットは、前試合で一部破損したプロテクターに身を包み、

普段の優しさを湛えながらも、毅然とした気高さを漂わせている。

資産を温存し、最小限の消費で勝機を狙う――その姿勢は、慎重かつ確信的だ。

観客席からは「ランス!」「ブリジット!」と声援が飛び交い、

夕陽に照らされた顔には期待と不安が交錯していた。

実況兼審判のマルサが声を張り上げる。

「準決勝第2試合、ランス選手とブリジット選手の対決です!

二人は長き資産形成旅路をともにしてきた同志。

だが、このリングでは友ではなくライバルとして戦う!どちらが先に攻撃を仕掛けるのか!」

ランスは顔を伏せ、静かに息を吐く。

その横顔には「準備はできている」という揺るぎない信念が見て取れた。

ブリジットは杖を軽く振り、全身に流れる静かな覚悟を確かめているようだった。

マルサの合図とともに、戦いが始まる。

――

ランスが魔導書を開くと、小さな光の球体がいくつも生まれ、

ブリジットの防御に軽く触れる程度の弱攻撃を繰り出す。

だが、その一つ一つが確実にブリジットの資産ゲージをじわりと削っていく。

マルサが実況する。

「おや、ランス選手、静かに弱攻撃を連打しています。これは資産温存策か、それとも読み合いの様子見か?」

観客の間には「なに?これで攻撃になるの?」と戸惑いの声も混じるが、

多くはその意味を理解している。

ランスはじっくりと相手の出方を探っているのだ。

それはまるで、投資の世界で積立型のゆるやかな力を積み重ねるような戦い方だった。

ブリジットは素早く防御しながら目を細める。

夕陽がプロテクターに反射し、鈍く光る。

彼女は何も言わず、静かに攻撃の波を受け止めていた。

マルサも実況を続ける。

「ブリジット選手、完全に資産を守りつつカウンターの機会をうかがっています。さすがです!」

観客席は一段と静かになり、

誰もが息を呑んで二人の動きを見つめている。

――

リングの時計が進む。

火花が散るような激しい攻防ではない。

お互いの資金=魔力を削り合う、シビアな駆け引き。

観客の視線が針のようにランスの一手、ブリジットの一瞬に集中していく。

ランスはさらに魔導書のページをめくり、

弱攻撃がブリジットのガードを揺らす。

しかし、ブリジットは冷静に受け流し、そのたびに呼吸を整えている。

俺とハイレもリング脇から固唾を呑んで見守っていた。

(これは……投資そのものだ。リスクを抑えて、でも着実に──)

俺は胸の奥が熱くなるのを感じながら、呟いた。

ハイレは拳を握りしめ、興奮と焦りが入り混じった声を漏らす。

「すげえ……ブリジットもランスも、頭で戦ってる!」

リングの攻防は、まるで真剣勝負の中に息詰まる読み合いを繰り広げていた。

――

マルサが実況を高揚させて声を乗せる。

「前半3分が経過しました……いまだ両者一歩も引かず!どちらが動くのか、観客も注視しています!」

ランスは静かに魔導書を持ちながら、心の中で戦略を整理していた。

次戦フリーとの戦いに向けて、資産を削られすぎるわけにはいかない。

だが、そんな気持ちは表情に出ていない。

その時、マルサが鋭く指摘する。

「ブリジット選手、小さな隙を見つけたようです!やや手を緩めた瞬間の一閃を狙ってきました!」

リング中央で、ブリジットの杖がシュッと前に伸びる。

小さな光を帯びた一撃。

ランスはハッと目を見開き、魔導書でそれを受け止めたが、明らかにバランスを崩す。

マルサの声が響く。

「寸前の一撃!これは危ない……ランス選手、バランス崩しました!きょうは小技の戦いかと思いきや、ブリジット選手、先手を取ってきました!」

観客席がどよめき、拍手が起きる。「おおっ!」「おおーっ!」

俺も思わず身を乗り出した。

(ブリジット、やった……!)

ハイレも興奮した声を上げる。

「おぉ、そうきたか!ブリジットやるな、お前……!」

ランスは軽く笑いながら、魔導書をゆっくり拾い上げた。

「さすがだな。だが俺もまだ余裕がある」

マルサが実況する。

「ランス選手、冷静な返しです!」

リングは再び静寂に包まれる。

息遣いと時間が凝縮されていく。

そして、リング中央のムードが一転する。

「……資産はもう限界になってる……でも……!」

マルサが静かに実況する。

「ええと……資産ゲージがかなり減っています……ブリジット選手、後半一発を狙うと思われますが、もしそれが外れれば……!」

リング上に鋭利な緊張が走る。

観客たちの息づかいが聞こえてきそうだ。

――

その時、リングの端にある小さな鐘の音がそっと響いた。

決意の時が来たのだ。

(ブリジット……ここで決めるのか?)

俺は心臓が跳ねるのを感じながら、次の瞬間を見守った。

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