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第32話 資産武道会 準々決勝1 ランス vs マルチ先輩

王都大闘技場、観客席はまるで嵐のようにざわめいていた。

俺――ランスは、リングの中央で深呼吸をひとつ。

いつも通りの黒髪、整った鎧、腰には全世界ファンド・ユニティ。

だが、今日は妙な胸騒ぎが消えない。

(なぜだ……いつもより、空気が重い。

この相手だけは、絶対に負けてはいけない気がする――)


マルサの声が轟く。

「さあ、準決勝の大一番!全世界インデックスの守護者、ランス選手!

対するは……マルチ商法の帝王、マルチ先輩だぁぁっ!!」

リングの反対側、金ピカのスーツに身を包み、

やたらと人当たりの良い笑みを浮かべた男が登場した。

背後には、ピラミッドのように積まれた商品箱。

その一つ一つに「夢」「自由」「成功」「仲間」と、

薄っぺらい言葉がデカデカとプリントされている。

マルチ先輩が、観客席に向かって手を振る。

「みんなぁ!一緒に夢を叶えよう!絶対儲かる、最高のビジネスだよ!」

(……うさんくさい。だが、その言葉に引き寄せられる人がいるのも事実だ)


俺の胸に、かすかな怒りが芽生える。

(こんなやり方で、友達を巻き込んで、

最後はみんなを不幸にする……絶対に許せない)


「さあ、バトル開始ッ!」

マルサの合図と同時に、マルチ先輩が一歩前へ。

「まずは君に、この夢の箱をプレゼントしよう!」

彼が指を鳴らすと、

リング上にピラミッド型の箱が現れ、

中からはキラキラしたサプリ、謎の健康グッズ、

高額な美容クリーム、ありとあらゆるマルチ商品が溢れ出す。

「これを君が使って、さらに友達に紹介すれば、

君もすぐに自由を手に入れられる!」


(……これがマルチ商法の仕組みか。

自分が売って、さらに友達を勧誘して、

ピラミッドの下にどんどん人を入れていく。

でも、儲かるのは上の一部だけ。

下の人間は、在庫とローンだけが残る……)

俺は静かに剣を抜き、

「俺は、誰かを踏み台にしてまで資産を増やしたくはない」


マルチ先輩がにじり寄る。

「ランス君、君なら絶対成功するよ!

この素晴らしい商品を、家族や友人にも紹介してあげて!」

彼の手から放たれるのは、

《勧誘トーク・ラッシュ》《夢語りスプラッシュ》《成功者の自慢波》!

「絶対に損はさせない!」「みんなで幸せになろう!」「最初はみんな不安だったけど、今はみんな笑顔だよ!」

(……うるさい!)

だが、その言葉はまるで呪いのように心に絡みつく。

(本当に……これで幸せになれるのか?

いや、違う。

これは、ただの押し売りだ)


俺は分散投資バリアで防御するが、

言葉の矢はじわじわと心を削ってくる。

(……やばい、気持ちが揺らいでいる!?)


マルチ先輩はさらに攻めてくる。

「君が紹介してくれれば、君の友達も幸せになれる!

紹介料も入るし、みんなで旅行にも行けるよ!」

リングの周囲に、

友達や家族の幻影が現れ、

「ランス、信じてるよ」「一緒に頑張ろう」と手を伸ばしてくる。

(やめろ……やめてくれ……)


俺の心に、過去の痛みが蘇る。

(昔、友達にいい話があるって誘われて、

断ったら関係が壊れたことがあった。

あの時の寂しさ、今でも忘れられない)

「みんなで夢を叶えよう!」

マルチ先輩の声が、リングを満たす。

(……俺は、誰かを傷つけてまで、

資産を増やしたくない!)


マルチ先輩はローン地獄ボムを投げつけてくる。

「最初はちょっとだけ投資すればいいんだよ!

すぐに元が取れるから!」

リング上に、

売れ残り在庫の山が現れ、

俺の足元に絡みつく。

「うっ……!」

重い。

心も体も、どんどん沈んでいく。

(やばい……このままじゃ、

俺も在庫地獄に沈む……!?)

観客席から「ランス、負けるな!」「しっかりしろ!」の声。

(……俺は、俺の信じた道を貫く。

誰かを犠牲にしてまで、

資産を増やすなんて、絶対にしない!)


俺は剣を強く握りしめ、

「俺は、地道に積み上げる。

誰かを騙すより、自分を信じる!」

全世界ファンド・ユニティが青白く輝き、

長期積立ブレードを展開!

「これが俺の答えだ!」

一閃!

リング上の在庫と勧誘の鎖が一気に断ち切られる。

マルチ先輩は後退し、

「な、なぜだ!? みんなで幸せになろうって言ってるのに!」

「幸せは、誰かを踏み台にして得るもんじゃない!」


マルチ先輩は本性を現す。

「ならば……これが本気だ!」

ピラミッド地獄が発動。

リング全体が巨大なピラミッドに変わり、

上から紹介料の札束が降り注ぐ。

下層の会員たちが、

「売れない……」「借金だけが残った……」と呻き声を上げる。

(これがマルチ商法の本質……

上だけが儲かり、下は搾取される)


俺は市場平均カウンターで札束の嵐を打ち返す。

「平均に回帰する力、侮るな!」

マルチ先輩はしつこい勧誘ラッシュを再び放つ。

「絶対儲かる!」「今がチャンス!」「みんなやってる!」

俺は情報リテラシー・バリアで防御。

「その情報、根拠はどこだ?」

クライマックス――心の叫び

(俺は、友達を失いたくない。

でも、騙されてまで、

誰かを不幸にしたくない!)

マルチ先輩が最後の友情崩壊フィニッシュを発動。

リング上に友達の幻影が現れ、

「どうして誘ってくれなかったの?」

「裏切ったの?」と責めてくる。

(……違う!俺は、俺の信じた道を選ぶ!)

「俺は、誰も犠牲にしない資産形成を選ぶ!」


「全世界資産奥義──MSCI斬!!」

剣が振り下ろされ、

ピラミッドが崩壊し、

リング上の在庫と幻影が一気に消え去る。


マルチ先輩は膝をつき、

「なぜだ……みんなで幸せになれるはずだったのに……」

俺は静かに言う。

「本当の幸せは、誰かを踏み台にして得るものじゃない。

地道に、誠実に積み上げたものだけが、最後に残る」

観客席から大歓声。

「ランス、最高!」「マルチなんかに負けるな!」「地道が一番!」

マルサが叫ぶ。

「これが堅実投資の真髄!

マルチ商法の極悪な仕組みも、しつこい勧誘も、

ランスの誠実さと分析力がすべてを打ち砕いたッ!!」

俺は剣を収め、

(……怖かった。

心が揺らぎそうになった。

でも、俺は俺のやり方を貫けた。

もう、誰も不幸にしない――)

リングは歓声と喝采に包まれ、

マルチ商法の闇を吹き飛ばす、爽快な勝利に沸き立っていた。

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