第31話 資産武道会 二回戦4 オルカ vs 転売亡者
「さぁ~てッ! 次の試合は我らが堅実投資の勇者こと、オルカァーッ!!」
観客席がどよめく。
俺は静かにリングへ歩み出す。
その足取りは迷いなく、けれど胸の奥では、静かな闘志とともに、
ほんのわずかな緊張が脈打っていた。
(ここまで来た。俺のやり方で、絶対に勝つ。だけど……相手は“転売亡者”。
短期の欲望で動く奴ほど、何をしてくるか分からない。油断はできない――)
リングの向こう、灰色のマント、ギラつく目、足元に積み上がるダンボールの山。
転売亡者。その姿は、欲望と醜悪さの塊だった。
(ああ、こういう奴がいるから、本当に欲しい人に物が届かなくなる。
俺も、子どもの頃に抽選で外れたゲーム機のこと、今でも忘れてない。
……絶対に、こんな奴には負けられない)
転売亡者は観客席に向かって誇らしげに叫ぶ。
「買えなかった悔しさを……オレは知っているッ!! 誰よりも早く、誰よりも高く売ってきた! そして誰よりも──荒稼ぎしてきたッ!!」
リングの上で、次々にダンボール箱を開けては限定品を見せびらかす。
その一つ一つが、誰かの夢、誰かの涙。
観客席からは「うわっ…」「あいつ、最低…」と嫌悪の声。
俺は静かに言う。
「……それ、もう規制かかったって聞いたけど?」
「う、うるさいッ!! これはリミテッド! 二年前の発売! 再販はされていない、つまり希少価値がある!!」
(売れ残りを誇るなよ……)
ランスが呟く。
「それを売れていないまま残してるのが問題だな」
マルサの解説が入る。
「転売品は回転率と流動性が命……過剰在庫はキャッシュフローを悪化させ、資産圧迫要因になりますね。売上原価が下がり、実際は利益が出てないのに税金だけ……いえ、詳しくは後で」
転売亡者は聞いちゃいない。
「オレは人より早く買って、人より高く売る天才なんだッ!
法のスレスレでも、売れれば勝ち!文句があるなら買えばいいだろうがッ!!」
観客席から「最低だ!」「子どもに夢を返せ!」と怒号が飛ぶ。
(……こいつ、本当に醜い。
自分の利益のために、他人の夢も未来も踏み台にしてる。
俺は、絶対に負けない。絶対に――)
「始めッ!!」
ゴォッ──!
転売亡者が《プレ値ブースト》を発動。
箱からは、マスク、ゲーム機、アニメグッズ、フィギュア、
そして抽選でしか買えない限定品が次々に俺を襲う!
「流通パッケージ・テンバイバーストッ!!」
(数で押してくるか……!)
俺は足元を滑らせながらも、素早く転がり直撃は回避。
だが、地面には売れ残りのポスターやチラシが散乱し、
一瞬バランスを崩す。
(まずい――!)
転売亡者はさらに箱を開け、
「在庫の山、くらえぇぇぇ!!」
未開封の限定グッズ、高額チケット、偽造シリアルナンバー付きアイテムまでが飛び出し、
俺の身体を直撃する。
「ぐっ……!」
(重い……! こんなに在庫を抱えて、どうやって回すつもりなんだ!?)
転売亡者は値上げ爆弾を投げつけてくる。
「プレ値アップ・ダイナマイト!!」
爆発とともに、俺の資産バリアが大きく削られる。
(やばい……このままじゃ押し切られる!)
観客席から「オルカ!がんばれ!」「負けるな!」の声。
(……俺は、こんなところで終わるわけにはいかない!
応援してくれる仲間や、観客の期待――全部背負ってるんだ!)
転売亡者は転売ループを発動。
売れ残り在庫を次々と新作として見せかけ、
リング上にプレ値の嵐を巻き起こす。
「売れ残りでも宣伝次第で高値になる!
これがオレの錬金術だぁぁぁ!!」
俺の体は、在庫の山に押し潰されそうになる。
資産バリアもひび割れ、
一瞬、膝をつきかける。
(……これが、短期利益に走る奴の執念か。
だけど、こんなやり方、絶対に長続きしない。
俺は、俺の信じた道を貫く!)
俺は静かに立ち上がる。
「……もう流行が過ぎてるからだよ」
「テーマ投資も、流行投資も、タイミングが合えば大きく伸びる。でも……次に売れるって確証がなければ、いつかは陳腐化する」
転売亡者は「バ、バカな……! オレは人より早く買って、人より高く売る天才なんだッ!」
「それは、投資じゃ通用しない!」
俺は分散投資バリアを展開。世界中の資産を象徴する魔法陣が、グッズの嵐を受け止める。
(俺の資産は、コツコツ積み上げたものだ。
一発逆転なんて狙わない。地道に、着実に。
それが、俺の生き方だ!)
「分散の力、見せてやる!」
転売亡者はさらに価格吊り上げウェーブを発動。だが、俺は市場平均カウンターで波を打ち消す。
「平均回帰の力、侮るなよ!」
転売亡者は「究極の一点モノ! 世界に一つだけの激レアアイテムだッ!!」
と叫び、リング中央に巨大なレアアイテムを召喚。
「これさえ売れれば、オレの勝ちだッ!!」
「希少性は、時として資産を大きく押し上げる。だが、世界経済全体の成長には敵わない!」
俺は全世界株・グローバルブレードを構える。
「世界経済の力、受けてみろッ!!」
「全世界資産奥義──MSCI斬!!」
剣が振り下ろされ、
転売亡者の激レアアイテムが粉々に砕け散る。
「ぐあああああああああああああああああああッ!!」
「返済しながら資産を増やす戦いもある……が、俺は純粋にリターンと世界の成長に賭ける」
「それが……俺のやり方だ」
リングが静まり返る。
だがすぐに爆発的な歓声が巻き起こる。
「勝者 オルカ!」
「やったああああ! オルカが転売ヤーを倒したぞ!」
「在庫で殴るなんて最低すぎたけど、オルカの一撃で全部吹き飛んだ!」
転売亡者は膝をつき、
「まだ……まだ在庫はあるッ!! オレのプレ値魂は……終わってねぇぇぇ!!」
と叫ぶが、観客席からは「もう帰れ!」「二度と来るな!」と怒号。
そのとき、リングサイドからブリジットが静かに歩み寄る。
彼女の瞳は冷ややかに転売亡者を見据えていた。
「転売亡者さん――
あなたの大量の在庫は、誰かの夢を奪ったかもしれない。もうやめてください。
欲望で積み上げた山は、いつか自分を押し潰す。
……せめて、最後は自分で片付けなさい!」
その一言が、場内に突き刺さる。
観客席からは拍手と歓声、
「ブリジット最高!」「言ってやった!!」
と喝采が巻き起こる。
転売亡者は顔を引きつらせ、
リングに散らばった在庫の山を見つめ、
ついに崩れ落ちた。
俺は静かに剣を収め、
(これが、堅実投資の力だ。
どんなに追い込まれても、俺は俺のやり方を貫く。
欲望にも、短期利益にも、絶対に負けない――)
リングは歓声と喝采に包まれ、
転売ヤー撃破の爽快感が、会場全体を満たしていた。
(次も、絶対に負けない――)




