第28話 資産武道会 二回戦1 ランス vs 不動産課長
静まり返った会場に、重々しい扉がゆっくりと開いた。
その瞬間、場内の空気は一変する。
石畳を踏みしめる足音が、まるで時を刻む鐘のように響き渡る。
リングに現れたのは――
整った黒髪とクールな瞳を持つ青年、ランス。
観客たちは一斉に息を飲む。
「来たぞ 全世界男ランスだ！」
「まだほとんど資産使わずに勝ち上がってるんだろ？」
「対戦相手は不動産課長だってよ！クセが強いにもほどがある！」
ランスは全世界株インデックスの化身。
勇者一行の要、彼の歩みに一切の迷いはない。
その背筋は真っ直ぐで、どんな嵐にも折れぬ信念を感じさせる。
反対側の扉が勢いよく開かれると、
バサリと不動産関連のチラシが宙に舞い、
スーツに身を包んだサラリーマン風の男が登場した。
首からぶら下がる社員証には「不動産課長」の文字が誇らしげに光っている。
「ワンルームマンションの魅力を 教えてあげましょうか」
リング中央に飛び出したマルサが、実況を開始する。
「さあ二回戦第1試合！ ランス対不動産課長！ 投資家として真っ向からぶつかる二人！
今回の見どころは なんと言っても不動産課長のワンルームマンション投資戦術！
資産形成の道は一本ではない。
だがそれでも ランスは全世界一本槍！ 真っ直ぐすぎて心配になるくらい真っ直ぐだ！」
鐘の音が鳴り響き、試合開始！
不動産の嵐――マンション召喚！
開幕と同時に、不動産課長が両手を広げる。
「資産運用とは 所有から始まるのだ！」
一瞬のうちに空間が歪み、
巨大なワンルームマンションがリング上に召喚される。
白く輝くワンルームマンション群が林立し、その威容はまさに圧巻。
「これが私の不動産戦術！ 月々の家賃収入でお前の資産を削ってやる！」
マンションの窓がパカッと開き、
そこから現れるのは無数の住人たち。
彼らが次々と家賃袋を不動産課長に投げ渡し、
その家賃の束がエネルギー化してランスを襲う！
「うおおおおおお！」
ランスが身を翻してかわすが、
家賃エネルギーは執拗に追いかけてくる。
その一撃は、投資信託という形をとらないランスにとって変則的な攻撃だった。
「ワンルームマンションはローンで買える！ レバレッジ効果で実質自己資金を抑えながら資産形成できる！ しかも実物資産！ インフレにも強い！」
「黙ってても 毎月安定した家賃収入が入る！」
「節税効果も高いんだぞおおおおお！」
その言葉と共に、さらにマンション群が増殖していく。
リングの半分が完全にマンションで埋まり、ランスは後退を余儀なくされる。
マルサも熱く叫ぶ。
「これは苦しいかランス！ ワンルームマンションの三連コンボ！ レバレッジ 節税 キャッシュフロー！」
「不動産課長！まさかここまでの実力者とは！」
分析の剣――リスクを斬る！
しかし、ランスの目は死んでいない。
静かに腰を落とし、呼吸を整える。
「なるほど 月々のキャッシュフローは確かに魅力だ。
だが、それだけでは勝てない」
ズシンッ。
ランスが地面を踏みしめると、
周囲に広がる影がゆらりと揺れ始める。
「お前の攻撃は 毎月毎月の小さな収入で構成されている。
その一つ一つを 看破していくまでだ」
突如、ランスの投資信託ブレードが鋭く輝く。
一撃でマンションの一つを斬り裂いた！
マンションの住人が吹き飛ばされる……
「これは！」
「入居者の入れ替わりリスクだ。
不動産投資は空室になれば収益はゼロになる」
「そしてこれは 修繕費用」
別のマンションを斬りつけると、そこからボロボロと配管が崩れていく。
「築年数が上がるほど修繕費が増える。長期で持ち続けるリスクはどこまでもついてまわる」
不動産課長が一歩下がる。
「ふふ……それでも……俺には修繕費の分も計算済みだ！ 負ける要素などない！」
「
固定資産税の額をなめるな！」
ランスが叫びながら、今度は税金型ブレードでマンション群を叩き割っていく。
「融資を受けてレバレッジを効かせるなら、その分キャッシュフローの余力を計算しなければならない！」
「金利上昇リスクもあるぞ！」
観客たちが沸き上がる。
「すげええ！ 不動産課長が劣勢になってきた！」
「ランスの分析力エグいぞ！」
マルサも興奮気味に実況を続ける。
「これは地味に効くぞ！ 家賃収入が下がったら即座にキャッシュフロー赤字！ 複数棟持ってたらそのダメージは倍増！」
「実物資産の強みが裏目に出てきた！」
決着――世界経済の剣
追い詰められた不動産課長が最後の反撃に出る。
「高層マンション一棟 購入ぅぅぅぅぅぅ！」
巨大な超高層マンションが召喚されて落下してくる。
その圧倒的存在感に観客たちが悲鳴を上げた。
「こんなやつを相手にお前ごときが勝てるわけがない！」
「資産運用において 不動産は最強！」
だがその瞬間、ランスの瞳が燃え上がった。
「全世界株インデックス投資とは ただの投資法ではない……」
「地球全体の経済成長に 未来を託す 生き方そのものだ！」
雄叫びと共にランスが突撃。
両手の投資信託ブレードを交差させて、巨大マンションを垂直に両断！
バァァン！
ビルが真っ二つに割れ、資産エネルギーが四散していく。
不動産課長が膝をつく。
「くっ……ローンが……まだあと二十五年分……」
ランスが静かに言った。
「返済しながら資産を増やす戦い方もある……が、俺は純粋にリターンと世界の成長に賭ける」
「それが……俺のやり方だ」
……リングが静まり返る。
だがすぐに爆発的な歓声が巻き起こる！
「勝者 ランス！」
「やったああああ！ 全世界男がまた勝ったぞ！」
「不動産課長！地味に強かったな！」
マルサが感極まって叫ぶ。
「ワンルームマンション投資！そのメリットも確かに強力だった！
だがランスは それを看破しつつ 己の信念を貫いた！」
「投資とは……信じた未来に資金を託すこと！」
こうして、準々決勝に進出する最初の1人が決まった。
ランス――
世界経済の未来を背負う男は、
次なる激戦へと静かに歩を進めるのだった――
