第26話 資産武道会 一回戦3 ハイレ vs 暴落待子
「さああああッ! 熱戦続く資産武道会、第3戦に突入ですぅぅッ!」
実況席に立つのは、リング中央の小柄な少女――審判兼実況官マルサ。
その可憐な見た目とは裏腹に、資産の収支に関しては一切容赦のない監査眼がギラリと光る。
彼女の声が響くたび、観客席の熱気がさらに高まっていく。
「続いての対戦はッ! 火の玉のような豪快男、《投資拳闘士ハイレ》選手〜〜!」
「対するは……冷徹なる機会損失の化身、《暴落待子》選手ですぅ!」
その名が告げられるや、観客席にどよめきが走る。
「ついに来たか……ハイレ!」
「いや、相手が悪い。あの待子、手を出せば出すほど損を呼び込むぞ……!」
リング上、ハイレはいつもの陽気な表情。
だがその瞳の奥には、熱い闘志が燃えていた。
「よっしゃあーっ! 気合入れていくぜっ、暴落待ち女ぁ!」
対する暴落待子は、漆黒のローブをまとい、
長く冷たい視線をハイレに向ける。
「……あなたのような早期参戦者は、すぐに天井を掴むのよ」
その声は低く、陰鬱で、まるで遠い未来からの警鐘のようだった。
――
「試合、開始ですぅぅッ!」
マルサの号令と同時に、ハイレが一気に踏み込む。
「いくぜ! ドラゴンファンドストレートォォ!!」
資産の力を拳に乗せた、直撃狙いの一撃!
だが――!
「……それが来ると思ってたわ!」
暴落待子は一歩も動かず、スッと身を捻ってかわす。
その瞬間、カウンターとして機会損失スモッグが展開される!
「うっ……!? おい、なんだこのモヤモヤは……!」
リング上に淡い灰色の靄が広がり、ハイレの資産残高がジワ……ジワ……と減っていく。
「ご覧ください! 暴落待子選手のスモッグは、投資タイミングを遅らせることで、敵の期待リターンを奪う損失オーラ! これは……!?」
「機会損失によるジワ削りだーーッ!!」
「マジかよ、こりゃ地味にきつい……!」
読み合いの攻防――待ちガイルの呪縛
「ちっ……でもなぁ、オレは地味なの嫌いなんだよ!」
ハイレが踏み込むが、暴落待子はまたも回避。
「またそれか……格ゲーなら待ちガイルだな」
観客席からも「また待ってる!」「攻めあぐねてる!」と声が飛ぶ。
だが、ここでハイレの目がギラリと光る。
「ふっふっふ……いいねぇ、そうこなくっちゃ。じゃあ、教えてやるよ!」
拳が光を帯びる。
「格ゲーはな、待ちガイルを崩せて一人前なんだよ!!」
ハイレの動きが変わる。
足を進め、暴落待子の距離に入り、あえてカウンターを誘いながら――
隙ができた瞬間、全世界株インデックスの力を一気に開放!
「全世界株・時価総額ブローッ!!」
ズドォォンッ!!
暴落待子、初の被弾!!
「やったあああああ! ハイレが削ったあああああ!!」
観客席が爆発する。
派手さはないが、その一撃には確かな理があった。
──長期リターンを得るには、待ちすぎること自体が損失になる。
暴落待子の《最安値狙い》は、時としてその瞬間を永遠に待ち続ける呪いともなる。
暴落の幻影――恐怖のデバフ魔法
「いいパンチだったわ……でも、私はまだ負けない……」
暴落待子が再び手を広げる。
発動されるのは、最凶のデバフ魔法――
「《暴落幻影》……!」
リング全体に、株価チャートの暴落グラフが映し出され、観客にも不安が広がる。
「うわああ! な、何だこの下落は!?」「L&Pが……全世界が……株価が全部落ちてるううう!!」
「ざまぁみなさい。これがまだ下がるかもしれないという恐怖よ……!」
「くっ……まさか、オレの資産がここまで……」
マルサが悲鳴交じりに叫ぶ。
「ハイレ選手、資産残高の減少が止まりませーん! このままじゃ危険ですぅ!」
しかし、ハイレはにやりと笑っていた。
「へっ、やっと本気出す気になったぜ……」
回想――
「おまえは出遅れた。それをどう補うか、ちゃんと考えろ」
以前のランスの言葉が頭をよぎる。
――
そう、オレは出遅れた。ぼったくりドラゴンファンドなんて魔界商品に騙され、長らく資産を腐らせていた。(まだドラゴンファンドを売却した訳ではないが)
だが、それでも。
「全世界株インデックス投資再会後、コツコツ積み上げて、ようやくここまで来た……! おまえの待ちには、もう付き合ってやらねぇ!!」
「いくぞ!ハイテク株の資産力を拳にに集中だッ!!」
拳に宿るは、現在積み立てている全世界株の力。
特に過去の成長を牽引した、ハイテクセクターMASDAQの光が一気に集中され――
「ハイテクMASDAQスマッシュ!!」
暴落待子、直撃ッ!!!
K.O.――勝利の雄叫び
マルサが叫ぶ!
「勝負ありぃぃッ!! ハイレ選手の勝利ですぅぅうう!!」
会場は総立ち。
戦いを読み合いで制し、最後には逆転。
これぞハイレの底力!
「はぁっ……はぁっ……勝ったぜ……!」
ハイレは天を仰ぎ、大の字に倒れながら吠えた。
観客席のランスは、ニヤリと微笑む。
「まったく……おまえらしい、泥臭い戦いだったな……」
ブリジットは手を組み、満足げにうなずく。
「でも……ちゃんと資産を増やしてる。あれが、ハイレの本当の強さよ」
こうして、第3戦はハイレの勝利に終わった。
観客は歓喜し、資産武道会の熱狂はさらに高まっていく――




