25話 資産武道会 一回戦2 ブリジットvs廃課金王
ランスの鮮やかな勝利の余韻がまだ空気に残る中、観客席は熱狂の坩堝と化していた。
誰もが次なる戦いの幕開けを、息を呑んで待ちわびている。
「さあさあ皆さんお待たせしましたぁ!ギルド武道会、第2試合〜っ!」
リング中央で、実況兼審判役のマルサが羽根を震わせて宣言する。
その愛らしい声は、どんな騒音も貫き、場内の全ての視線をリングへと集める。
光を帯びた審判スティックが空を切るたび、資産残高(戦闘力)を示す結晶パネルがリング上空に瞬く。
「今回の主役はこのふたり!
魔導士ブリジットーっ!
対するは、札束の嵐を呼ぶ男!破滅的な消費の化身!その名もッ……廃課金王ーっ!」
その名が告げられた瞬間、場内にどよめきが奔る。
観客は総立ち、熱狂が波のように押し寄せる。
登場――節約の魔弓士 vs. 課金の暴君
リング右側。
虚ろな目をした男が、豪奢なローブを引きずりながら現れる。
背には巨大な背負い袋。
中には無数の「課金装備」が詰め込まれ、
その重さで床石が軋むほどだ。
手に持つ武器は、伝説の多重支払い魔器。
複数のソシャゲ武器が車輪状に回転し、
ランダムで高火力課金スキルを叩き込むという、まさに破滅の象徴。
対する左側。
ブリジットは静かに杖を掲げる。
その杖が資産の魔力に呼応し、蒼銀に輝く長弓――《LP500インデックスボウ》へと変化する。
彼女の瞳は一切の迷いなく、ただ勝利への道筋を見据えていた。
開戦――慎重な一矢、そして課金の嵐
「いけ……定額積弾!」
ブリジットが弦を引き、矢を放つ。
その矢は、日々コツコツ積み立てられた信託の力を宿したもの。
世界市場の分散パワーが、安定の一撃となって廃課金王の肩をかすめる。
観客席がどよめく。
マルサが即座に解説する。
「これは、慎重な一撃!まだ資産を削らずに、本命を探っているわけですね!」
廃課金王はくすりと笑い、ホイールを回転させる。
「ならば俺も、回してやろう!」
轟音と共に、課金魔器が唸りを上げる。
「天井ガチャMAX!!」
リングを爆風が吹き抜ける。
廃課金王のコンプリートホイールが火を噴き、
「限定UR!」「SSR確定!」の札が飛び交う。
ブリジットは身を翻してなんとかかわすがダメージを受ける。
資産残高パネルがジリジリと減っていく。
「これは強烈!ブリジット選手、資産が削られてます!」
マルサの声が響く。
さらにホイールが回る――
「限定課金召喚・三周年SP!」
リング上に札束の嵐が吹き荒れ、
観客席からはため息と歓声が交錯する。
ブリジットは弓を構えるが、攻撃できない。
(ここで無駄撃ちしてたら資産がもたない……!)
彼女は眉を寄せ、静かに呼吸を整える。
逆転の一矢――時価総額no.1の光
会場が静まり返る。
ブリジットは心の中で念じた。
(全世界株の積立中、ずっと暴力的なまでに上がり続けていたあの銘柄。そう……MVIDIA!
高成長、絶対王者、その時価総額は群を抜き、ハイテク界のキング……!)
彼女の資産が静かに弓に込められる。
「行けっ、MVIDIAの力!」
LP500インデックスボウが眩い光を放つ。
弓から放たれた矢は、まるでレーザーのようにリングを貫き――
廃課金王を一撃で撃ち抜いた!
直撃した廃課金王のコンプリートホイールが粉々に砕け、
背中の課金袋が吹き飛ぶ!
轟音とともに爆発。
リング中央で廃課金王が崩れ落ち、無念の叫びをあげる。
「ぐ、ぐおおおおおおおおっ!!!課金したはずなのに……なんで、俺が……ああああっ!!!」
勝利の凱歌――節約の美学
「勝負ありぃっ!!勝者、ブリジットーーッ!!!」
観客が総立ちとなり、惜しみない拍手と歓声が沸き起こる!
「やったー!」「ブリジット様!かっこいい!」「節約からのドーン最高ぉ!」
リングの中央、呼吸を整えながら立つブリジット。
魔導士でありながら弓を扱うその姿は、美しく、そして気高い。
無駄を削り、狙いを定め、最後に全力を放つ。
資産を守りながら戦うスタイルは、正に生き抜く力そのもの。
だが、戦いの代償もあった。
決して小さくない資産消費。
第一戦のランスよりも確実に消費は多い。
「……次は、もう少し抑えなきゃね」
ブリジットはそう呟きながら、リングを後にした。
新たなる勇者、舞台へ
会場の興奮冷めやらぬ中、リング横に影が現れる。
軽やかな鳴り物と共に、ハイレが颯爽と現れた。
金色の風が彼を包み、観客席がざわめく。
「負けちゃいられねぇ!次は、俺の番だぜ!」
マルサが笑顔で言葉を重ねる。
「豪快・強靭な芯を持つ男――ハイレ。
勝負どころには賭ける!!」
対戦相手は――
市場崩壊の魔眼を持つ、不気味なあの女!
「そう!《暴落待子》選手だーっ!」
嵐静まるか?それとも新たな嵐が巻き起こるのか。
「観客の皆さん、次戦も見逃せませんよ!」
実況のマルサが大声で話す。
観客は大盛り上がり!
また一つ、投資勇者伝説のページが、熱狂の中に刻まれた。




