表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/46

第24話 資産武道会 一回戦1 ランスVS見栄張過男(みえはりすぎお)

王都の大闘技場――

その日、空は高く澄みわたり、陽光が白亜の石造りの観客席を照らしていた。

円形リングを取り巻くスタンドは、今や身動きも取れぬほどの超満員。

熱気は竜巻のように渦巻き、歓声とざわめきが空気を震わせていた。

上空には巨大な魔法ビジョンが浮かび、

資産武道会のロゴが燦然と輝く。

その下で、今まさに新たな伝説が始まろうとしている。


――


「せぇのっ! 本日の実況兼審判を務めますギルド会計妖精のマルサです! みんな、最後まで盛り上がっていこうねっ!」

ひらりと空を舞い、羽根つきローブを翻して着地した妖精。

その手に握る審判スティックが一振りされるたび、リング上空に資産(戦闘力)を示す結晶パネルがキラリと光る。

マルサの瞳は、どんな不正も見逃さない監査眼の輝きを宿していた。

「プラスもマイナスも正直に☆」

彼女の口癖が、今日もどこか不穏な期待を呼び込む。


――


「さぁ開幕カードはこのふたり! 

エントリーNo.1《ランス》選手! 対するはエントリーNo.2《見栄張過男(みえはりすぎお)》選手です!」

魔法ビジョンに二人の姿が映し出される。


登場――浪費の化身 vs. 積立の剣士


リング右側。

観客の視線を一身に集めるのは、

ギラギラと輝く高級ブランド鎧、宝石が散りばめられたマントを身にまとい、

腰には漆黒の銃――《リボるバー・クレカナイン》。

弾倉には無限リボ払いカードがぎっしり詰まっている。

見栄張過男(みえはりすぎお)――

その名の通り、浪費と見栄の権化だ。

「見ろよこのド派手装備! マルサちゃんもオレに惚れるだろ?」

「はいはい☆ 総コストを聞いたらもっと惚れ込めるかもねっ!」

会場がどっと沸く。

過男は得意げにマントを翻し、観客席にウインクを飛ばす。


リング左側。

黒の軽装鎧、整えられた髪、腰に一冊の魔法書――《全世界ファンド・ユニティ》。

世界分散投資を象徴するその書を携え、

静かに立つのはランス。

「少ない支出で最大の価値を得る――それが俺の戦い方だ」


その声は静かだが、芯の強さが滲んでいる。

観客席の一部からは「堅実派だ!」「あれが噂の積立剣士!」と囁きが漏れる。


マルサがスティックを高く掲げる。

「資産武道会 第一試合……始めッ☆」

開戦――資産バトルの火蓋が落ちる

「行くぜぇぇッ!」

見栄張過男がリボルバーの引き金を引く。

――バリバリバリッ!!

飛び出したのは、ラグジュアリーカード、プライオリティトラベルカード、

年会費十万ベルのブラックカード――

煌びやかなカード弾が、流星のごとくランスに降り注ぐ。

撃つたびに背後の資産残高パネルが赤字で点滅し、

観客席からは「すげぇ!」「あれ全部本物か!?」と悲鳴と歓声が入り混じる。

「これが俺の豪華バーストだぁっ!」


だが、ランスは一歩も動じない。

魔法書を開くと、淡い青光がリングを包み込む。

「投資信託の守護よ――展開オールカントリー・シールド

世界経済を象った六角結界が彼の周囲に広がり、

クレカ弾を吸収すると、結界の表面に世界地図が浮かび上がる。

「おぉっ! 分散投資の結界が全部弾いた!」「派手さゼロなのに、鉄壁……!」


マルサの監査眼がギラリと光る。

「見栄張選手、撃ったカードは相当額! 残高は……あらら、早くも危険水域かも?!」


見栄張過男の額に汗が滲む。

「ぐっ……ならば連射だッ! 《ゴールドカード・ラッシュ》ッ!」

第二射。

札束エフェクトを伴うカード弾が雨あられと降り注ぐ。

リング上が金色の光に包まれ、観客席は「うおおお!」とどよめく。

だが、ランスは結界の縁だけをわずかに強化して防ぎ切った。

「本当に必要な資産なら、長期で守り、増やす。

短期の見栄撃ちは浪費にしかならない」

ランスの瞳が鋭光を帯びる。

「核心を突く一撃……受けてみるかい?」

ランスは魔法書をパタンと閉じた。


決着――未来を切り開く剣


ランスの右手に純白の剣が出現する。

刀身には世界株価推移の刻印が脈動し、

未来グラフが刃を走る。

「信託剣・セカイノミライ――長期・分散・低コストッ!」

ズバッ!

一閃!!

剣撃は剛速球のように伸び、クレカ弾を貫通、

見栄張過男のリボるバー本体を真っ二つに裂いた。

バラバラっ……!!

黒銃が砕け散り、空中を舞うカードが灰となる。

「な、なんでだぁぁああ! 俺のリボるバーがぁぁッ!」


「未来を先に使えば、残るのは借金だけさ」

ランスが静かに剣を収める。

結界はスッと消え、彼は微動だにしない。


マルサが元気いっぱい宣言する。

「勝者! 積立投信の剣士・ランス選手っ☆」

リングが振動するほどの拍手と大歓声。

観客の一人が叫ぶ。

「派手じゃなくても最強じゃんかーッ!」「全世界投信、マジで堅いッ!」


見栄張過男は倒れたまま項垂れ、ブランド鎧の破片だけが虚しくきらめいた。

次戦の気配――新たなる戦士、リングに立つ

リングサイドで仲間たちが駆け寄る。

「やったね、ランス!」

オルカがガッツポーズを決める。

「さっすが堅実だな! 俺もつみたて増やそ……」

ハイレが感涙。

ランスは微笑み、視線をリング端へ向ける。

そこに――


月光のように凛と立つ女性。

揺れる髪、瞳は澄み、派手さはないが上品な防具。

手に携えるのは愛用の魔法の杖。

観客が息を呑んだ。


「次の出場者……《ブリジット》選手っ!」

マルサが高らかに告げる。

ブリジットが一歩、リング中央に進むたび、空気が研ぎ澄まされる。

強さ――計算し尽くした節約戦略。

美しさ――清冽な弓姿。

そして、勇者一行の誇り。

ブリジットが矢をつがえると、石畳に走る魔法陣が薄く光った。

彼女が向ける視線の先、次なる対戦者がリング下から姿を現す――


「借金の海から這い上がった男……《廃課金王》だと?」

観客が歓声とも悲鳴ともつかぬ声をあげる。

ランスが静かに呟く。

「次は、俺より過酷かもしれない。――頑張れよ、ブリジット」

静かな熱風がリングを包み込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ