第3話 稼ぐ者、背負う者
俺たち勇者パーティーは、宿屋のテーブルで朝食を囲みながら、昨日の投資結果と今日の作戦を話し合っていた。
「オルカ、俺のドラゴンファンド、分配金が入ってたぞ!」
ハイレがパンフレットを振って自慢げに言う。
「やっぱり、毎月お小遣いがもらえる投資って最高だよな!」
「ハイレ、それって本当に得してるの?」
ブリジットが鋭い視線を投げる。
「分配金って、元本から出てることもあるし、手数料も高いのよ?」
「え、そうなのか……」
ハイレが一瞬しょんぼりする。
「まあ、経験だな」
ランスが苦笑しながらも、俺たちの資産状況を確認してくれる。
全世界株インデックスは微増、生活費も節約できている。
「投資も大事だが、今日はもうひとつ大事なことを体験してもらうぞ」
――
その日、俺たちは町外れの森でスライム討伐の依頼を受けていた。
森の中、ぴょんぴょん跳ねる地味なスライムたち。
「よし、俺が行くぜ!」
ハイレが剣を振り上げて突撃する。
俺も続き、ブリジットとランスがサポートにつく。
スライムは素早いが、みんなで連携して撃破に成功した。
すると、地面に小さなベル袋と、なぜか「借用書」のような紙切れが残っていた。
「これが討伐報酬か? ……って、なんだこの紙?」
俺が拾い上げると、ランスが説明してくれた。
「この世界では、モンスターを倒すと資産と負債の両方を受け継ぐ仕組みなんだ。
スライムみたいな地味なモンスターは、資産も少ないが負債も少ない。
だからリスクは小さいが、リターンも小さい」
「なるほどな……」
俺は手元のベル袋(資産50ベル)と、借用書(負債10ベル)を見比べる。
「派手なモンスターだとどうなるんだ?」
ハイレが興味津々で尋ねる。
「金色のドラゴンやゴーレムみたいなど派手なモンスターは、資産も大きいが、
見えない負債――つまり、後から発覚する借金や維持費、呪いなんかを背負い込むことが多い」
ランスが真剣な顔で続ける。
「うわ、それヤバくないか……」
ハイレが顔をしかめる。
「地味なモンスターをコツコツ倒して、堅実に資産を増やすのが王道よ」
ブリジットがにっこり微笑む。
俺たちは、その後も森でスライムやコウモリなど地味なモンスターを討伐した。
討伐のたびに、少しずつ資産と負債が積み重なっていく。
「こうやってバランスを見ながら、資産運用も冒険も続けるんだな」
俺は実感を込めてつぶやく。
「そうだ。派手なリターンに飛びつくと、見えないリスクで痛い目を見る。
投資も冒険も、地道な積み重ねが大切だ」
ランスの言葉が、俺の胸にしっかり刻まれた。
宿に戻り、今日の収支をみんなで確認する。
資産は増えたが、負債も少しだけ増えている。
「これが現実か……」
俺はしみじみと家計簿を眺める。
「でも、こうして一歩一歩進んでいけば、きっと魔王ジミンにも勝てる日が来るはずよ」
ブリジットが優しく微笑む。
「よーし、明日も地道にがんばるぞ!」
ハイレも元気を取り戻し、俺たちは次の冒険に備えて眠りについた。
こうして、俺たち勇者パーティーは「資産と負債の継承」というこの世界の厳しいルールを実感しながら、一歩ずつ魔王討伐への道を歩み始めたのだった。




