第17話 襲来!教財魔王キョウイキン ~幻惑のカタログと誘惑の呪文~
静寂を切り裂く来訪者
休日の昼下がり。
我が家は、穏やかな空気に満ちていた。
リビングで子どもがブロックを積み上げ、ブリジットは家計簿アプリをいじっている。
「今月の積立額は……」なんて、彼女の声が心地よく響く。
俺はコーヒーを片手に、ふと窓の外を眺めていた。
その時――
「ピンポーン♪」
玄関のインターホンが、静寂を切り裂くように鳴り響いた。
俺は何の気なしに立ち上がり、玄関へと向かう。
「はーい、今出まーす……」
扉を開けた瞬間、目の前が眩い光に包まれた。
そこに立っていたのは、神々しいまでに光り輝くスーツに身を包み、
虹色のオーラをまとった一人の男。
「ごきげんよう!貴殿にお子様がいらっしゃると聞き、この地に降臨した次第!」
彼は豪奢なカタログを掲げ、まるで【魅了系魔法】のように滑らかな話術を繰り出し始めた。
その瞬間、俺の脳裏に警戒アラートが鳴る。
だが、彼のオーラは尋常ではない。俺の魔法防御をすり抜けて、心の隙間に忍び込んでくる。
魅了魔法《パーフェクトメソッドZ》の罠
「こちらが、我が社の至高の魔導書……
『エリート養成パーフェクトメソッドZ』でございます!」
男がカタログを開くと、虹色に輝く教材群と、
やたら胡散臭い成功者たちの笑顔が踊っていた。
「この聖典を使えば、貴殿のお子様は天空学園の主席入学も夢ではなく、
国王直属の賢者候補にさえなれるでしょう!」
カタログのページからは、微細な魔力が漂い始める。
俺は気づけば、その金色のページに吸い込まれるように見入っていた。
「う、うちの子が……主席に……?」
「代償は、月額15,000ベルを18年、総額324万ベル!
この未来への投資、決して高くはありません!」
彼の声は、まるで呪文のように俺の理性を侵食していく。
頭の中で「うちの子が天才に…」「親としての使命…」みたいな幻影がグルグルと渦巻き始める。
魔力に囚われる俺
気がつけば、俺は完全に話に引き込まれていた。
「これは必要経費かもしれない…」「子どもの未来のためなら…」
そんな思考が、まるで他人事のように浮かんでくる。
カタログの中の成功者たちが、俺にウィンクして手招きしている。
「君もこちら側に来ないか?」
その声が、現実と幻覚の境界を曖昧にしていく。
「これなら、うちの子も……」
その時だった。
妻、雷鳴の鉄拳降臨!
「おおぉぉい、何しとんじゃコラァアア!!」
バァン!!
雷鳴のような衝撃が後頭部を貫いた。
振り返ると、ブリジットが仁王立ちで睨んでいる。
彼女の【雷属性・鉄拳】が俺の意識を現実に引き戻した。
「ちょっとアンタ!うちの財政、もう忘れたの!?
その金額で世界株式インデックスにどれだけ積み立てできると思ってんのよッ!」
「うぐっ……ま、また術中に……くっ……ッ!」
俺は一瞬で正気を取り戻した。
だが、男の魔力はなおも部屋を包み込んでいる。
正体判明!中ボス《教財魔王キョウイキン》
「ふふふ……やはりバレてしまいましたか……!」
男の身体から邪悪な瘴気が噴き出し、
その姿を変えていく。
光のスーツは邪なる法衣へ、カタログは呪詛の魔導書へと変貌!
その正体は――
資産を吸い尽くす中ボス、教財魔王!!
「子供の未来、という免罪符さえあれば、親たちは自ら喜んで財布を差し出す……!
わが術式【課金幻想】を止められるものなどおらぬわァァァァ!!」
室内に立ち込めるのは【誘惑のオーラ】。
俺の脳裏には、子どもが天空学園で天才と称えられる映像が流れ始める。
「これさえあれば、うちの子が……!」
妻の言葉、理性を導く光
その時、ブリジットが俺の手をぎゅっと握った。
その温もりが、俺の心に光を灯す。
「ねえ、本当に大事なことって何?
高額な教材じゃ、子供の心は育たないわ。
必要なのは、一緒に考えて、過ごして、愛してあげることでしょ?」
その言葉は、俺の迷いを一瞬で吹き飛ばした。
視界がクリアになり、部屋の空気が変わる。
「……そうか。教育とは見栄じゃない。
本当に必要なものを選び取る、それが親の役目……!」
俺の中で、何かがはじけた。
共闘!夫婦の連携必殺技!!
「虚構の未来に惑わされるなッ!!」
俺は叫ぶ。
「うちの教育方針は堅実成長型よ!!」
ブリジットの声が重なる。
二人の声が共鳴し、連携魔法が発動する。
【家計防衛陣】!!
【消費裁断剣《サブスク斬》】!!!
俺の手から放たれた防御魔法が、部屋中に煌めくバリアを展開する。
ブリジットの剣が、呪詛のカタログを一刀両断にする。
光と雷の連撃がキョウイキンを直撃した。
「ぐああああ!ま、また別の家庭でぇええぇぇえええ……!!」
呪われしカタログは灰となり、部屋に静けさが戻る。
戦利品と新スキル
討伐の報酬として、俺たちは新たなスキルを手に入れた。
•【誘惑耐性】(オルカ)
→ 営業トークを受けても魔法にかからなくなる確率 +50%
•【支出査定眼】(ブリジット)
→ 初見でその出費が妥当かどうかを3秒で見抜く能力
さらに、呪われしカタログの灰からは、
【節約の小結晶】と【教育方針の書】がドロップした。
これからの家計防衛に、きっと役立つアイテムだ。
夜の語らい、月明かりの中で
夜、俺たちはリビングで並んで座り、静かに語り合った。
「……子供には、本当に必要なものだけを与えて、あとは自分の力で育ってほしいな。」
「その分、私たちがいっぱい話して、笑って、思い出を刻んでいこうね。」
月明かりの下、ブリジットの横顔は穏やかで美しかった。
眠る子どもの寝息が、俺たちの心を癒してくれる。
――
ふと、俺は思い出した。
「あ、そういえば最近忙しすぎて資産チェックしてなかったな……」
《財産管理魔導具》を起動すると、
そこには――
驚愕の数値が表示されていた!!
「うおおおおお!? な、なんだこの数値は……!」