第2話 ドラゴンファンドの罠と勇者たちの選択
王都の朝は、今日も活気に満ちていた。
宿屋の食堂で、俺――オルカは仲間たちと朝食を囲んでいる。
昨夜、国王から託された100万ベルの重みが、改めて心にのしかかる。
「さて、資産運用の第一歩だな」
ランスが真剣な表情で切り出した。
「この国の物価は高い。モンスター討伐だけじゃ、とても暮らしていけない。投資で資産を増やすしかない」
「投資って、なんか難しそうだな……」
俺が不安を漏らすと、ハイレが元気よく手を挙げた。
「おう、俺に任せろ! 昨日、証券ギルドの前で[ドラゴンファンド]ってのを勧められたんだ! 対面型で説明も親切だったし、これで一攫千金だ!」
ハイレは得意げに、証券ギルドのパンフレットを広げる。
金色の竜が描かれたその表紙は、いかにも強そうで、初心者の心をくすぐる。
「しかも、毎月分配型らしいぞ! 毎月お小遣いがもらえるなんて最高だろ?」
「ちょ、ちょっと待ってハイレ!」
ブリジットが慌てて止めに入るが、ハイレはすでに証券ギルドのカウンターに向かっていた。
証券ギルドの店内は、煌びやかな装飾と笑顔のスタッフで溢れていた。
「いらっしゃいませ! 勇者様にぴったりのドラゴンファンド、今なら特別キャンペーン中です!」
美人スタッフの甘い声に、ハイレの目が完全にハートになる。
「購入手数料はわずか3%、信託報酬もたったの年2.5%! 毎月分配金がもらえて、安心の対面サポート!」
スタッフの巧みなセールストークに、ハイレはすっかり乗せられてしまった。
「よし、俺は50万ベル、ドラゴンファンドに突っ込むぜ!」
ハイレは勢いよく契約書にサインする。
スタッフが満面の笑みで握手してくるのを見て、俺とランス、ブリジットは顔を見合わせてため息をついた。
「ハイレ……あれは典型的な[ぼったくり投資信託]だ」
ランスが低い声で言う。
「毎月分配型は手数料が高く、長期的には資産が目減りする。対面型証券で勧められる商品は、販売側に都合がいいものが多いんだ」
「えっ、そうなのか?まあなんとかなるだろ!」
ハイレは驚くが、あまり気にしていないようだ。
「大丈夫よ、ハイレ。これも経験よ」
ブリジットが優しく肩を叩く。
「でも、私たちはちゃんと調べてから決めましょう」
ランスはノートパソコンを広げ、ネット証券の画面を見せてくれる。
「本当に資産を増やしたいなら、全世界株インデックスファンドが最適だ。
手数料は年0.05%以下、長期で持てば複利の力で大きく増やせる。世界中の成長を取り込めるから、リスクも分散できる」
俺とブリジットは、ランスの助言に従い、
それぞれ30万ベルずつ全世界株インデックスファンドを購入。
残りは武器防具など生活費と緊急資金に回すことにした。
「これで準備は万端だな」
ランスも同じファンドを選び、パーティーの資産運用方針が固まった。
――
その日の午後、俺たちは王都郊外の[初心者の森]に向かった。
流石に投資だけでなく、戦闘力も鍛えなければ魔王ジミンには勝てない気がする。
森の中に入ると、すぐに青いスライムが現れた。
「オルカ、初陣だ!」
ハイレが木の剣を構える。
「任せろ!」
俺はスライムに向かって突進した。
スライムは意外と素早く、ぴょんぴょん跳ねて俺の攻撃をかわす。
「オルカ、焦らないで! 動きをよく見て!」
ブリジットが声をかける。
「右から来るぞ!」
ランスの冷静な指示に従い、俺はタイミングを合わせて剣を振る。
スライムの横腹に一撃が入り、ぷるんとした体が大きく揺れる。
「やった、効いてるぞ!」
ハイレも加勢し、二人でスライムを追い詰める。
最後は俺が渾身の一撃を叩き込み、スライムを撃破した。
「やった……! 初勝利だ!」
スライムは消え、地面に小さなベル袋を残した。
中身はたったの50ベル。
「これだけか……」
俺は思わず苦笑いする。
――
宿に戻った夜、ハイレはドラゴンファンドの契約書をじっと見つめていた。
「うーん……俺、ちょっと調子に乗りすぎたかもな……」
「でも、これも立派な経験だよ」
ブリジットが励ます。
ランスはパソコンでインデックスファンドの運用状況を確認し、
「焦らずコツコツ積み立てていこう。これが本当の資産形成だ」と微笑む。
俺たち勇者パーティーは、それぞれの選択と初陣の手応えを胸に、
新たな一歩を踏み出すのだった。