第11話 セイメイの盾、そして未来へ
新たな門出、勇者たちの現在地
18歳で旅立った俺たちも、いまや二十代中盤。
討伐クエストをこなしつつ、全世界株インデックスの積立を続ける俺。
副業ブログで小銭を稼ぐブリジット。
ハイレは相変わらずギャンブル魂を燃やし、ランスは資産形成一筋。
仲間たちはそれぞれ「次なる人生」への準備を始めていた。
冒険者の道は資産形成だけじゃない。
家族、仕事、夢、そして未来――
守るべきものが増え、選択の重みも増していく。
俺の心にも、これまでにない守りたいものが芽生え始めていた。
港町カイジョウ――運命の出会い
そんなある日、鉱山都市シャチクの南、港町カイジョウで事件は起こった。
討伐帰りの俺が海風に吹かれながら歩いていると、
路地裏の古びた看板が目に留まる。
《セイメイのホケン・ライフセキュリティ本店》
何気なく扉を開けると、店内はまるで伝説の盾工房。
壁には無数の保険商品が結界のように浮かび、
天井からは魔法陣が淡く輝き、
空気は張り詰めていた。
カウンターの奥に立つのは、
白銀の鎧を纏い、天使の微笑みを浮かべる保険騎士アドバイザー。
「大切な人ができたら、その人を守る盾も必要ですよ」
その言葉に、俺の脳裏には自然とブリジットの姿が浮かんだ。
だが、ここは投資勇者。
保険の吟味は、まさに盾選択バトルの始まりだった。
伝説の盾工房――魔法と罠の饗宴
「まずは、掛け捨て型の真髄をご覧あれ!」
保険騎士アドバイザーが契約書を掲げると、
床に魔法陣が浮かび上がる。
──《死亡保障・黒金の盾》
契約者が死亡・再起不能時、3,000万ベルが受取人に支給される伝説の結界。
──《入院保障・癒しの魔法陣》
入院時、日ごとに5,000ベルが支給される回復呪文。
「そして、こちらが私のイチオシ──貯蓄型《黄昏の宝箱》!」
黄金の宝箱が宙に浮かび、
「数十年後に返礼金もあります。資産形成にも一役買う、錬金の保険ですよ!」
甘い囁きが、俺の耳をくすぐった。
だが、俺の冒険者本能が警鐘を鳴らす。
「これは……ただの盾選びじゃない。魔法と罠の饗宴だ!」
バトル開始!誘惑の宝箱 vs 投資剣
「いざ、決戦!」
アドバイザーが宝箱を開くと、
黄金の光が店内を満たし、
俺の意識を包み込もうとする。
「資産形成もできて、保障もある。これぞ万能の錬金保険!」
宝箱からは、未来の夢、返礼金の幻、老後の安心といった幻影が溢れ出す。
俺の心が揺れる。
「見てください、この返礼金シミュレーション!30年後には元本の1.2倍が戻ってきます!」
宝箱の中では、
・老後の自分が微笑む幻影
・金貨が降り注ぐ夢
・家族が安心して暮らす映像
が次々と現れる。
「さあ、契約を。あなたの未来を守るために!」
アドバイザーの声が、まるで催眠魔法のように響く。
幻術の深層――資産運用勇者の葛藤
俺の手が、契約書に伸びかけたその瞬間――
脳裏にランスの声が響く。
「魔法はシンプルなほど強い。保険も掛け捨て一択だ。資金の自由を失うな!」
「……そうだ。俺は、何のために資産形成をしてきた?」
俺は投資剣【インデックスブレード】を抜き、
宝箱の結界に斬りかかる!
「年利1〜2%で20〜30年資金ロック……それならリスクは伴うが長期的に見た場合、全世界株インデックスの方がリターンが高いと思う!その差額は恐らく保険屋の利益という名の養分!!」
宝箱の光が揺らぎ、
掛け捨て型の黒金の盾が前に出る。
「保険で守るのは金じゃない。ブリジットだ!」
盾選択バトル――掛け捨て型の真価
「ならば、掛け捨て型を見せてやろう!」
アドバイザーが黒金の盾を高々と掲げると、
店内に重厚な結界が張り巡らされる。
「この盾は、万が一の時に家族を守る。
だが、資産形成の主役にはならない。
あくまで守りの装備だ!」
俺は盾の重みを感じる。
「守るべきものがあるからこそ、攻めも守りもバランスが大事なんだ」
アドバイザーが【超入院保障・癒しの魔法陣】を展開。
店内に癒しの光が満ちる。
「これがあれば、病や怪我に倒れても、家族に負担をかけない」
盾と魔法陣が俺の背後で輝き、
守りの結界が完成する。
宝箱の逆襲――貯蓄型の誘惑
だが、アドバイザーは諦めない。
「まだ迷っているようですね……それなら、貯蓄型の真の力を見せましょう!」
宝箱が再び輝きを増し、
【返戻金の幻影】が店内を満たす。
「この保険なら、将来まとまった資金も手に入ります。
投資と保障、両方を手に入れましょう!」
宝箱からは、
・老後の黄金の家
・家族の笑顔
・分厚い通帳
が次々と現れ、
俺の心を揺さぶる。
「……だめだ、このままじゃ飲み込まれる!」
仲間たちの声――戦略会議
その時、仲間たちの声が店内に響く。
ランスが資産形成の槍を構え、盾を睨む。
「オレは保険には入らん。その分は資産形成に全ブッパだ。でも、オルカの判断は間違いじゃない。」
ブリジットは副業の書を掲げ、微笑む。
「ありがとう……その保険、きっと無駄になってくれるといいね」
ハイレはドラゴンファンドとスロットのコインを両手に掲げる。
「オレ? 無理無理!ドラゴンファンドとスロットの二刀流で手一杯っす!」
それぞれの選択が、光と影のように交錯する。
どれも間違いじゃない。
人生の盾は、自分で選ぶしかないのだ。
盾選択バトル――心理戦と最終決断
宝箱の幻影が俺の心を包み込む。
「資産形成もできて、保障もある。これぞ万能の錬金保険!」
だが――
「俺は、守りたいもののために戦う!」
俺は【インデックスブレード】を高く掲げ、
「年利1〜2%の資金ロックより、自由な資金で未来を切り拓く!」
盾と剣が激突し、店内に雷鳴が轟く。
魔法陣が唸り、宝箱の結界がひび割れる。
「これが俺の選択だ!」
契約の儀式――勇者の盾を選ぶ
俺は《黒金の盾》と《癒しの魔法陣》の契約にサインを刻む。
その瞬間、盾と魔法陣が俺の背後で輝き、
守りの結界が完成する。
「これでいい。俺は、守りたいもののために戦うんだ」
アドバイザーは静かに微笑み、
「素晴らしい選択です。あなたの未来に、祝福を」
未来へ――保険の盾を背負って
海辺の通りを歩きながら、俺は盾の重みを感じていた。
(……この保険、果たして必要だったのか?)
冒険に絶対の安全はない。
だが、守りたいものがあるからこそ、戦うのだ。
「資産形成は、自分たちの手で築くしかない」
金も、絆も、明日も。
戦って、稼いで、守って、選び取るのだ。
保険という盾を背負い、俺は仲間とともに再び歩き出す。
──目指すは魔王ジミン討伐。
だが、その前に守るべきものがある。
保険騎士アドバイザーの店から吹く新たな風が、
勇者たちの背を押していた。
生命保険に関しては賛否両論あると思います。
住宅ローンの団信や高額療養費制度のある日本では必要ないという意見も多いですが、作者同様(笑)主人公には保険に入ってもらうことにしました。