番外編 センキョ再び 二院の守護獣
旅の途中、俺たち投資勇者一行は、城下町キフキンシの活気に包まれていた。
晴れ渡る空、金貨の音、笑い声。
だが、平穏は一瞬で破られる。
──バサァッ!
不意に吹き抜けた風が、俺たちの足元へ一通の封書を運んできた。
「おっ、これは……センキョの召喚状か」
封を切ると、ハイレが食い入るように覗き込む。
「え、今回の特集は……『シュウギイン vs サンギイン!?』モンスター対決でもやるのか?」
「違う違う、それはモンスターじゃなくてギインという組織だ」と、解説役ランスが冷静に割り込む。
「ギイン……また難しそうな話だなぁ」と、ブリジットが苦笑いした。
【センキョの塔・召喚の間】
風に導かれ、俺たちはセンキョの塔へと辿り着いた。
ここは王国の政策と税の命運を握る、立法の要所。
荘厳な石造りの回廊を進むと、巨大な扉が俺たちを迎える。
「塔の奥に、二体の守護獣が封印されている」
ランスの声が響く。
──《速攻の鋼牙・シュウギイン・レクイエム》
──《守護の氷壁・サンギイン・セレーネ》
幻影として現れた二体の巨獣。その威容に、思わず息を呑む。
「でっけぇ……! あの鎚、ギ・マレットで法案ぶっ叩いてそう……!」
「その通り!シュウギインは国民の声にすぐ反応し、政策を一気に変える高速アタッカーだ。ただし、暴走しやすい」とランス。
「だから防御役のサンギインが必要ってわけね!」とブリジット。
「うん。サンギインは6年任期で落ち着いてる。交代も半分ずつで、暴走法案を抑えるブレーキの役目だ」
「じゃあ、派手なのは前者で、地味なのは後者って感じかぁ〜やっぱり俺は派手な方がいいなあ!」
ハイレの声が塔に響いた、その時──
──ゴゴゴゴゴ……
地響きと共に、塔の奥が裂けた。
【法案暴走獣・シュウレイジ、出現!】
巨大な影が現れる。
──法案暴走獣・シュウレイジ!
「ギャオオオオオ!!」
それは、シュウギインが暴走させた政策が具現化した、歪みの魔獣だった!
全身を覆うのは乱れた法案の札。鋼鉄の牙がギラリと光り、背には「増税」「無計画支出」などの呪符が踊る。
咆哮一つで市場が揺れる。俺たちの資産も吹き飛びかねない、まさに経済災害級の魔獣だ。
「落ち着け。この暴走獣はサンギインなしじゃ封印できん!オルカ、やってくれ!」
ランスの声が緊張を引き締める。
「任せろ!」
俺は投票剣を抜き放つ。
剣先が青白く輝き、民意の力が宿る。
「これが、俺たちの一票の力だ!」
疾風のごとく駆け、シュウレイジの胸元──「不透明な審議」と刻まれた札を狙う。
シュウレイジが法案の札を振りかざし、鋼鉄の鎚で俺を叩き潰そうとする。
だが、俺は紙一重でかわし、剣を振り抜いた。
──ズバァン!
札が裂け、魔獣の動きが一瞬止まる。
「ブリジット、援護を!」
「了解! 世論魔弾!」
ブリジットが放つ魔弾が、政策の矛盾を撃ち抜き、シュウレイジの体表に亀裂を刻む。
その隙を突いて、ハイレが叫ぶ。
「いけぇぇ! 出番だサンギイン!!」
塔の奥から氷の結界が広がる。冷気が空間を満たし、暴走する法案の札が凍りついていく。
──《守護の氷壁・サンギイン・セレーネ》
サンギイン・セレーネが現れ、冷気の奔流でシュウレイジを包み込む。
氷壁は静かに、だが確実に、暴走する法案の力を封じていく。
シュウレイジは暴れ狂い、札を振り回すが、氷の鎖がその四肢を絡め取る。
「シュウギインの力も大事だが、サンギインの冷静さがなければ国は滅びる……!」
ランスの言葉が響く中、シュウレイジはついに氷結し、静かに崩れ落ちた。
塔が静まり返る。俺たちは互いに息を整え、勝利の余韻に浸った。
【センキョと資産形成の真実】
「……なあ、前回のセンキョの時にも聞いた気がするんだけど……」
俺はふと呟く。「センキョって、オレたちの資産形成と何か関係あるのか?」
ランスが頷く。「大いにある!税制、社会保障、投資支援政策──全部、誰が国を動かすかで変わる。」
「つまり、誰を選ぶかでお金の未来が変わるってことね!」とブリジット。
「逆に言えば、投票しないってのは、未来を他人に任せるってことだ」ランスが続ける。
「お金のことを考えるなら、政治から目を逸らすな。資産形成とセンキョは、同じ自分の未来を守る戦いだ」
【若者の投票率と金のリテラシー】
「でもさー、どうして若いやつらって投票行かないんだろな?」
ハイレが首を傾げる。
「金融リテラシーと同じさ。知る機会がないんだ」
ランスの目が鋭く光る。
「遥か西の国、スウェディーナでは小学校から模擬選挙と金融教育をやってる。結果、若者の投票率は日本の倍以上だ」
「じゃあ……学ばなきゃダメなんだな。政治もお金も」
俺の目に、決意の炎が灯る。
「そう!知って、考えて、選ぶ。それが勇者の資格だ」とランス。
【未来を選ぶ者たち】
塔を出る俺たちの背中に、最後の風が吹いた。
──「選ぶ者に、未来は微笑む」
その文字が、空に刻まれていた。
ブリジットが呟く。「結局、資産形成って一人の戦いじゃないのよね」
「選んで、積み立てて、守ってく……政治も、投資も、同じだな」俺も応える。
「よし、次のセンキョは絶対行こうぜ!」
「おう、投票行動こそ、俺たちの未来へのスキルツリーだ!」
俺たちは再び歩き出す。
──目指すは魔王の討伐。
だがその前に、未来を形作るこの国の選択を、決して他人任せにはしない。
センキョの塔から吹く風が、俺たち投資勇者の背を押していた。
次なる戦場へ向かう俺たちの胸に、確かな希望が宿っていた。
若者の投票率を上げたくて、つい番外編を書いてしまいました。
是非投票へ行きましょう!