第10話 為替の迷宮(ダンジョン・FX)──運命を賭けろ!
俺たち投資勇者一行がたどり着いたのは、かつて「商人の楽園」と呼ばれた交易都市〈リピート〉。
今やこの街は、誰もが畏れる異名を持つ――
為替の迷宮(ダンジョン・FX)!
ここに眠るのは金銀財宝じゃない。
世界中の「お金の価値」がぶつかり合い、
まるで魔法のように上がったり下がったりする通貨の力そのものだった。
街の至るところに「レートの泉」や「両替屋の塔」、
果ては「損切りの墓場」なんて不吉な場所まである。
「ここが……噂の運命を賭ける街か……」
俺はごくりと唾を飲み込む。
この街の空気は、まるで戦場のように張り詰めていた。
【魔王スイスラ、降臨!】
「ようこそ……ゼニ・エクスチェンジへ」
入口の老婆が不気味に囁くと、
突如として空が真っ二つに裂けた。
ズガァァァァン!!
黒い鱗に覆われた巨竜――
《為替の魔王・スイスラ》が現れる!
「通貨介入なんぞ、幻想に過ぎぬッ!」
魔王が咆哮した瞬間、街中の通貨レートが暴れ狂う!
「お金の価値」が一瞬で跳ね上がったり、急落したり、
地面が割れて、住民たちが右往左往する。
「レートが……暴れてる!」
ランスが叫ぶ。
俺の心臓も、激しく脈打っていた。
【ハイレ、運命の一撃!】
「ここが……夢のFX……!」
ハイレは魔導スマホを高々と掲げ、
「お金の力を賭けて、勝負するんだ!」
彼が選んだのは「ドルン(ドル)」と「スイスラ(スイスフラン)」の通貨ペア。
10倍レバレッジ――持っているお金の10倍まで賭けられるという必殺技!
「いくぞぉぉッ!」
ハイレが「買い!」のボタンをスワイプすると、
画面の中のチャート(お金の値段のグラフ)がまるで魔竜の尾のように暴れ狂う!
上下に跳ねるグラフ、急転直下の値動き。
「うおおおおおおおおおおッ!」
ハイレの額に汗が滲む。
一瞬で利益が伸びるが、次の瞬間には損失が襲いかかる。
魔王スイスラの咆哮が、為替の波を荒れさせる。
数分後――
「……微損ッ!」
ギリギリで大負けは免れた。
だが勝ちでもない。
それでも、ハイレはどこか誇らしげに胸を張る。
【トレーダーたちのバトル!秒刻みVS週刻み】
その時、迷宮の奥から2人の伝説のトレーダーが現れる。
一人目は「1秒ごとに勝負!」の超速戦士、《スキャル・ラピッド》。
もう一人は「じっくり待つ!」の知恵者、《スウィング・ウィズダム》。
スキャル:「小さくなって!コツコツ抜く。それが俺の流儀!」
スウィング:「大きな波を待つ。それが勝利のカギさ」
ふたりは魔王スイスラに挑む!
スキャルは「秒単位」で何度も売買!
だが、1回ごとに“手数料”が引かれ、資産がじわじわ削られていく。
「まだ……まだだッ!」
魔王の板情報ジャミング魔法(=情報が狂う呪い)が発動!
思った値段で売れずに大損!
「ぐふッ……爆損だと……!?」
スキャル、退場。-30,000ベル。
スウィングは「今こそ勝負!」と大きな波を待ち伏せるが、
魔王スイスラがダンシング・リバースで真逆の方向へ!
「うそだ……反転っ……しないっ……!」
含み損の波が押し寄せる
スウィング、退場。-28,000ベル。
【瓦礫の中、微損トレーダー・ハイレ】
瓦礫の中、魔王が去ったあとに立っていたのは……
微損トレーダー・ハイレただ一人。
「勝ってない。けど、負けも少ない……!」
退場してないだけで英雄気分である。
ランス:「……お前、地味にすげぇな」
ブリジット:「逆に一番現実的な勝者かも」
ハイレ:「ふっ……俺の戦いは、まだ始まったばかりさ……次は、もっと派手に損してやるぜ!」
オルカ:「いや、そこは勝てよな……」
【FXの真実、ブリジットの解説】
ブリジットが解説する。
「FXっていうのは、お金の値段を当てるゲームみたいなものよ。
たとえば、1ドル=100円のときに『これからドルが強くなる!』と思ったら、
ドルを買って、値上がりしたら利益が出る。逆に下がったら損をするの」
「レバレッジってのは、持ってるお金より大きな金額で勝負できる魔法。
でも、その分だけリスクも大きい。
勝てば一気に大儲け、負ければ一瞬で退場――それがこの世界の掟だ!」
「手数料や情報のズレ(スリッページ)も、時には敵になる。
必勝法なんてない。
でも、退場しなければ、また次の勝負ができる!しかし長期投資にはあまり向いていないものだ……」
【勇者一行、為替の迷宮を後に】
俺たちは、為替の迷宮を後にする。
だが、リピートの通貨の嵐は、今日も誰かの資産を飲み込んでいく――。
ハイレは拳を握りしめ、
「次こそ、微損じゃなくて爆益を狙うぜ!」と叫ぶ。
ランスは苦笑し、
「それができたら、伝説のトレーダーだな!しかし大多数の人はFXで負けてしまうぞ!」と肩をすくめる。
ブリジットは、
「でも、退場しなかったあなたは幸運だったわね!」と微笑んだ。
俺は、
「……やっぱり俺は、地道な積み立てが性に合ってるな」と、
そっと財布を握りしめるのだった。
――為替の迷宮は、また新たな挑戦者を待っている。
だが俺たちは、どんな嵐の中でも、前に進み続ける。
資産形成の冒険は、終わらない!