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第8話 暴落、そして空を裂くイナズマ

シロア帝国――その名は、世界の不穏と恐怖の象徴だった。

だが、誰もが「まさか」と思っていたその日が、ついに訪れた。


宣戦布告もないまま、帝国軍の魔導兵団が中立国家ライナ王国の国境を蹂躙。

空を焦がす雷撃魔法サンダーブリッツ、爆音のバーストテンペスト

人々の悲鳴と閃光が夜を引き裂き、世界は一瞬で戦場へと変貌する。

「まさか……本当に戦争を始めやがったのか……ッ!」

その報せは、瞬く間に世界中を駆け巡った。

経済都市は混乱の渦に呑まれ、魔導通信板は警報と噂で埋め尽くされる。

恐怖の魔物が暴れ回るように、世界中のチャートは血のように赤く染まっていった。


俺――オルカは、宿屋の一室で証券アプリの画面を睨みつけていた。

そこに映るのは、命の灯火が消えていくかのような、真っ赤に染まったグラフ。

「やばい……やばいぞ……っ!」

手が震える。

昨日まで+25%だった全世界株インデックスが、たった数日でドローダウン20%。

資産が、まるで崖から転げ落ちるように溶けていく。

画面に浮かぶ「売却」の赤いボタン。

その指が、恐怖と迷いに震える。

(今なら……逃げられる……これ以上減る前に売却すれば、薄利だが撤退できる……)

その瞬間、俺の背後に黒い影が現れる。

「売れ……売るんだ……今ならまだ間に合う……」

それは狼狽売りの魔物――暴落時に現れ、投資家の心をむしばむ悪霊だ。

影は俺の肩にまとわりつき、耳元で囁く。

「やめろ……やめろ……!」

だが、指は売却ボタンに近づいていく。

心の奥で何かが囁く。

(ここで売れば、またやり直せる……)

その刹那――


「バカッ! そんなの押すなァ!!」

バチィンッ!

渾身の平手打ちが、俺の頬を撃ち抜いた。

殴ったのは、ブリジットだった。

怒りと焦り、そして愛しさが混じったその一撃は、雷鳴のように響いた。

「……ブリ……ジット……?」

「寝てろ! そして売るな!」

怒声とともに、俺の意識は暗転。

床に崩れ落ちる俺の耳に、狼狽売りの魔物の断末魔がかすかに聞こえた。


だが、俺の意識が闇に沈むその瞬間――

本当の戦いが始まった。

【狼狽売りの魔物 VS 投資勇者パーティー】


俺の精神世界に、巨大な魔獣「パニックセル・デモン」が姿を現す。

その体は赤いチャートで覆われ、口からは《連鎖売却ブレス》が迸る!

「売れ!売れ!資産を溶かせぇぇぇ!!」

パニックセル・デモンが《狼狽の咆哮》を放つと、

勇者パーティーの心が激しく揺さぶられる。

ランスが《理性の号令》で仲間の動揺を抑え、

ブリジットが《ブログ拡散・不動の意志》を発動!

「暴落時こそ、何もしない勇気を!」

SNSの光が魔獣の身体を貫き、

一瞬、魔獣の動きが鈍る。

しかし、パニックセル・デモンは《恐怖感染ウェーブ》で再び襲いかかる。

ギルドの仲間たちが次々と「売却」ボタンに手を伸ばし始める!

「くそっ、ここで負けてたまるか!」

ランスが《含み益バリア》を展開。

長期投資の積み重ねが、精神に厚い防壁を築く。

魔獣の攻撃がバリアに弾かれ、パーティーの心の動揺が徐々に静まっていく。


「信じて、積み立ててきた自分を!」

ブリジットが《応援の光》で俺の精神を癒す。

俺は気絶したまま、無意識のうちに【スキル:暴落時気絶投資】を発動。

どんな攻撃にも「何もしない」ことで耐える最強の防御――

パニックセル・デモンの猛攻を、俺たちは一丸となって受け止める。

ついに、ランスが《耐える勇気》の一撃を放つ!

「これが、俺たちの意志だ!」

勇者パーティーの意思の光が、魔獣の胸を貫く。

パニックセル・デモンは断末魔の叫びを上げ、霧のように消え去った。


――


暴落がピークを過ぎた、ある日のこと。

空が、裂けた。

「なに……あれ……?」

誰かが呟く。

雲の裂け目から差し込むのは、一筋の金色の閃光。

ただ純粋な力として降り注ぐその光は、世界中の空に現れ、静かに輝きを放っていた。


【伝説魔法:イナズマ】


経済が深い闇に沈んだとき、ごくわずかな者だけがその輝きを受け止められる。

それは暴落後にだけ現れる、回復の兆しである。

だが――

勇者たちの心は、まだその奇跡を受け入れる準備が整っていなかった。

戦慄、混乱、恐怖。

暴落の爪痕は、心に深く残っていた。

希望の光「イナズマ」は、静かに空へと舞い上がり、そのまま消えていった。

「……あれは……チャンスだったのかもしれない」

ランスが呟いたその言葉は、風にかき消された。

暴落は通り過ぎたように見えた。

だが世界が元に戻るとは限らない。

イナズマを見逃した俺たちは、次に何を学び、どう進むのか――


俺たち勇者パーティーは、資産も、心も、嵐の中でじっと耐えながら、

新たな夜明けを待つしかなかった。

だが、俺は信じている。

嵐の後に、必ず新たな光が差すことを。

それが投資勇者の、最大の武器なのだから。

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