一見
カルロスは、その週の週末の土曜日の夜に、ボクを「ボストン」に連れて行ってくれた。「ボストン」は外見からは普通のバルと何も変わったところはなかった。ただ、ドアの横にブザーが付いていて、そのブザーを押して、バルのバーテンダーに顔見せして、一言二言話さないと、中に入れてもらえないシステムらしかった。カルロスとバーテンダーのやり取りを聞いていると、カルロスにバーテンダーはスペイン語で一言尋ねたようだった。簡単な単語だった。
「エンティエンデス?」
バーテンダーはそう尋ねた。ボクにも理解できる単語だった。「分かる?」ぐらいの意味だ。カルロスが肯定の返事をすると、ボクらは入店を許された。さしずめ、日本風に言うと会員制のバーという感じだった。
バルの中に入ると、ボクはあることにすぐ気付いた。普通のバルだったら、土曜日の夜なら、老若男女が客としているはずだった。ところが、このバルの客はと言えば、年齢層こそ幅があったが、男しかいなかったのだ。ボクはここが、いわゆるゲイバーであることを悟った。
カルロスは、カウンターの空いている所にボクを招き寄せると、何を飲むかと聞いてきた。ボクはアルコールはほとんど飲んだことがなかったので、困惑したが、カルロスに言った。
「君と同じ物でいいよ」
「じゃあ、クーバ•リブレでいいかなあ」
「それは何?」
「コーラをラム酒で割ったカクテルだよ。ちょっと強い酒だけど、飲みやすいから大丈夫だよ」