陽月屋敷
長い時間が経ったのか、辺りは明るく白み始め、太陽が顔を出そうとしていた。
日花は疲労で眠ってしまったであろう皓を、軽く揺さぶった。
「皓さん、お待たせしました。到着しましたよ。」
日花が指差した先には、古風ながらも荘厳な豪邸が建っていた。
周りには花が咲き誇り、まるで皓を歓迎しているかのようだった。
「ん…到着したって…」
「陽月屋敷にようこそ、皓さん。」
「…」
(ちょっとびっくりしちゃったかな。)
日花がそう考えていると、屋敷の奥から小走りでやってくる、何人かの人影が見えた。
「日花さま!」「おかえりなさいませ!」
「ただいま。」
双子の少女らしきメイドと柔らかい雰囲気の男の人が日花に駆け寄った。
「この人が皓さんだね?」
「そう。芽土兄さん、医務室まで運んでくれる?」
「わかった。」
「彩葉と彩菜はお風呂と着替えの用意を。」
「「はい!」」
芽土と呼ばれる優しげな男の人が皓をひょいと持ち上げた。
「あの…すいません、急に…」
皓が申し訳なさそうに言うと、芽土は優しく微笑んだ。
「いいんだよ、気にしないで。」
(相変わらず兄さんは天使だなぁ…)
日花は感慨深そうな顔をすると、芽土の肩をポンっと叩いた。
「さ、急ぎましょ。」
「うん。」
少し歩いたあと、2人はある部屋の前で止まった。
コンコン
「水花、いる?夜に言ってた診てもらいたい人なんだけど…」
「はーい!」
部屋の扉が勢いよく開き、中から水色の髪をもつ可愛らしい女の子が出てきた。
「おかえりなさい、お姉ちゃん!この人が皓さんだね。」
水花はそう言うと、ぺこりとお辞儀をした。
「初めまして!日花お姉ちゃんの妹の水花です。よろしくお願いします。」
「よろしくね。」
「見た感じ出血多量だね。薬打って手当するから、中入って。」
「はい。じゃあちょっとチクっとしますね〜」
(…注射、初めてのはずなのに随分落ち着いてるな…)
日花は不思議に思いながらも、皓に向かって口を開いた。
「急に変なこと言って、変なところに連れてきちゃってごめんなさい。結婚のことなんだけど、今から私が言うことをよく聞いて、よく考えて決めて欲しい。」
(…皓さんは、どう思うのかな。)
日花は深く息を吸った。
「…大臣、と言うものを知っているよね。」
皓をコクン、と頷いた。
「この国に5人しかいない、超重要人物ですよね。」
「そう。そしてそのうちの一つ、情報大臣を務めているのが…」
日花は意を結したように、手を握り締め、口を開いた。
「私なの。」
「えっ…!」
「…情報大臣は表向き、全国の情報を調査し、管理するのが責務とされているけれど、実際は、命の危険がある場所にまで出向き、国家機密並みの情報を取り扱うことから、いろんな人や国から命を狙われる。」
(…本当は、こんな私と結婚しない方がいい。わかってる。でも…それでも、私は…)
「…私と結婚すれば、必ず命の危険がつきまとう。それでも、私は皓さんと夫婦になりたい。これは、当主としての私ではなく、1人の人間としての、私の願い。」
「…」
(やっぱり、いやだよね…)
「少し、考えてみてほしい。」
「…うん。少し、時間が欲しい。」
この場に、気まずそうな少しの沈黙が起きた。この空気に耐えられなくなったのか、水花が口を開いた。
「…さて、そろそろいいんじゃない!?」
「いいって何が…うわぁっ!?」
水花は皓の包帯を容赦なく解き始めた。
「何してんですか!?今巻いてもらったばっかりなのに!」
「いいから見てみて。」
「見てみてって…あれ?」
皓が深く負っていたはずの傷が、綺麗さっぱりとなくなっていた。
「傷が塞がってる!?」
「私の薬は優秀なの。」
水花は誇らしげに言った。
「…芽土兄さん。皓さんを大浴場に案内してあげて。」
「はいよ〜。もう立てそうかい?」
皓はぎこちないながらも、その場に立ってみせた。
「はい。大丈夫そうです。」
「それじゃあ、行こっか。」
皓は頷くと、日花の方に振り返った。
「あの…何から何までありがとうございます。」
「…どういたしまして。」
(本当に、皓さんは優しいな。こんな私を気遣ってくれるなんて…)
日花は物悲しそうな目をして、2人を見送った。
第二話を読んでくださり、ありがとうございました!
一話は皓目線でしたが、二話は日花目線となります!
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