プロポーズは突然に
これは、抱えきれない苦しみを持つ少年少女の、大切なものを守りたいという強い思いが重なった、奇跡の物語。
(拝啓、前世と今世の父さん、母さん。お空の上では仲良くしていらっしゃいますか。俺はまた死にそうになっています。助けてお願い。)
皓は心の中でそう呟き、空を見上げた。
辺り一面が火、火、火…。
今ここは、戦の真っ最中なのだ。
鼻に広がる火薬と血の匂い。何度嗅いでも吐き気がする匂いだ。
(まったく。巻き込まれるこっちの身にもなってほしい。)
そう考えていた皓のもとに、数十本の火矢が飛んできた。大量に出血しているせいか、足に力が入らない。
(もうこれまでか…短い人生だったな…)
皓は特に走馬灯を見るでもなく、静かに目を閉じた。
「木枯らし」
その瞬間、凄まじい風が頬をかすって通り過ぎた。
「…!!」
皓が驚いて目を開けると、背を向けた可憐な少女が目の前に立っていた。
(こんな戦場に、女の子?)
不思議に思っていると、少女はくるりと振り返り、座り込んでいる皓に目線を合わせてきた。
「大丈夫ですか?」
澄み切った、あたたかい声だった。
太陽を連想させる、綺麗な黄金の瞳をした少女は、なぜだか慌てたように口を開いた。
「え、えっと…こ、今夜は月が綺麗ですね!」
「…今夜は新月ですよ。」
「えっ!?」
少女は慌てて空を見上げた。なんだか少し、不審な感じがしたが、きっと助けてくれたのだろうと思い、皓は口を開いた。
「助けてくださったんですよね?ありがとうございます。でも、ここは危険なので、俺なんか置いて早く逃げてください。」
少女は目を見開き、皓の顔をじっと見つめた。
「あの…?」
「やっぱり。遠回しに言ってもダメかぁ…」
少女はそう言うと、がっかりしたように項垂れた。
「…?」
「あなたの名前を、教えてくれませんか?」
「名前…?皓です。平民なので、姓はありません。」
「皓さん…。私は、日花と申します。」
「日花さん…」
「はい!」
日花と名乗る少女は皓の手を取った。
「急なことだというのは承知の上です。どうか、私と結婚してくれませんか?」
「…は!?」
(初対面でプロポーズ!?)
ドゴォォォン!!
辺りに凄まじい轟音が響いた。
「とりあえず、いったんこの場から離れましょう。」
「あ…俺、足に力が入らなくて…」
「なるほど!」
「何がなるほどなの!?」
日花は帯から扇のようなものを取り出し、地面に向けて振りかざした。
「風繭」
2人の周りを風が包み込み、足がふわりと浮いたと思うと、どんどん地面から離れていった。
「うぉぉっ!?」
「少し移動しますが、舌を噛まないでくださいね!」
皓はしばらく考えた後、風に身を任せ天を仰いだ。
(俺、これからどうなっちゃうんだろう…)
そんな皓の不安をよそに、夜空に浮かぶ無数の星たちは我よ我よと眩い輝きを放っていた。
初投稿作品、第一章、一話がスタートしました!
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