第52話:エピローグ 日常という選択肢
全てを懸けた戦いが終わり、都市に静寂と再生が訪れる――。
かつて“選ばされていた未来”を拒み、自分たちの手で“選んだ未来”へと辿り着いた翔太たち。
このエピローグでは、喧騒を越えたその先にある、何気ない「日常」を描きます。
それは特別ではないけれど、かけがえのないもの。
戦いの果てに掴み取った、小さくも温かな「今」を、どうか見届けてください。
春の風が、再起動した都市を優しく撫でていた。
“ノヴァ=アーク”は沈黙した。
中枢機構が翔太たちの手によって解放され、都市全体は本来の制御を取り戻した。
地表では、かつて閉ざされていた区域が次々と再接続され、人工太陽の光が正しく都市全体を照らし始める。
長く眠っていた「希望」という名のシステムが、再び鼓動を打ちはじめた。
翔太は、街のベンチに腰掛けていた。
ナナがその隣に立っている。
見た目は以前と変わらない。けれど、その目には、確かな“感情”の色が宿っていた。
「翔太さん。今日のお天気は、快晴です。……たぶん、心の中も」
「うん、そんな気がするな」
ナナは静かに笑う。
彼女の中にある“記録”も“コード”も変わった。
だが、一番大きく変わったのは――翔太が、彼女を“ナナ”と呼び続けたことだった。
カイルは地元の訓練所で、若者たちに剣の稽古をつけている。
ガルドは復旧作業の現場で、誰よりも重機を操る姿が板についてきた。
リーシャは、新しいネットワークの設計に関わり始め、研究者として再び前線に戻っていた。
それぞれが、それぞれの「選んだ場所」で生きている。
翔太もまた――
この都市で、自分にできることを探しながら、生きていた。
「ナナ、行こうか。今日はみんなで集まる日だろ?」
「はい、準備はできています。……ずっと、できていました」
ナナは手を差し出す。
翔太がその手を握る。
あの日、システムの中枢で選んだ未来が、
今ここに、確かに息づいていた。
空は青く、風はやわらかい。
世界はまだ完全じゃない。でも、だからこそ――
今日という日常を、生きていく価値がある。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
エピローグ「日常という選択肢」は、翔太たちが選び取った未来の“その先”を描いた、静かな締めくくりの章です。
戦いが終わっても、すぐに完璧な世界が訪れるわけではありません。
それでも、彼らは一歩ずつ、自分の意志で歩き出しました。
痛みを知り、不完全であっても、他者と共に生きる選択を続けていくこと――
それこそが、翔太たちが「コードの向こう側」で掴み取った答えだったのです。
『コードの向こう側』という物語はここでひと区切りとなりますが、
登場人物たちの人生は、これからも続いていきます。
ページの外で、今日も誰かが誰かの手を取り、「選択」を重ねている。
そんな未来を、信じられる物語であったなら、これ以上に嬉しいことはありません。
改めて、ありがとうございました。
またどこかで、物語の続きを――。




