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コードの向こう側  作者: たむ


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第48話:迷宮の記憶

選択は、常に何かを得て、何かを失う行為だ。

それは過去に遡るほど重く、未来に進むほど鋭く、心を試す。


翔太たちが足を踏み入れた“選別の迷宮”は、ただの試練ではない。

それは、彼ら自身の記憶と恐れを映し出す、精神の深層そのものだった。


過去の過ち、抱えた罪、逃げた選択。

そして――それでも信じてくれた仲間たちの想い。


翔太たちは、それぞれの“自分”と向き合う時間を通して、改めて「選ぶ」ということの意味を問われる。

その先にあるのは、破滅か、それとも希望か。

《ノヴァ=アーク》中枢。

翔太たちの前に開かれた“最終試練”へのゲートは、まるで虚空を縫うように淡い光を放っていた。

その中へ一歩足を踏み入れた瞬間、視界が白く塗りつぶされる。


――そして。


次に目を開けたとき、翔太は見慣れた風景の中に立っていた。

そこは、かつて通い詰めていた旧研究所。

がらんとした室内。揺れる蛍光灯。冷たく静まり返った空気。


「……ここは、まさか」


「再現空間です。あなたの記憶と、心に刻まれた選択を可視化したもの」

声がした。振り返ると、そこには“もう一人の翔太”が立っていた。


青年期の自分。理想に燃え、躊躇なくコードを書き続けていた頃の自分だ。


「何かを守るために、君は選んだ。

だけど、それが誰かを切り捨てると知って、今の君は立ち止まった」


過去の自分は淡々と語る。感情もなく、ただ記録のように。

翔太は歯を食いしばった。


「違う……俺は、諦めたんじゃない。あの時と今では、背負ってるものが違うんだ」


「違わないさ。選ぶことの意味から、君はずっと逃げてる。

“正しいか間違ってるか”でしか見ていない。選んだ“その先”の可能性を、君はまだ恐れている」


鋭い言葉に、翔太は思わず立ちすくむ。




別の空間。

カイルは、見覚えのある森の中にいた。

木々の隙間から差し込む光、静かな風の音。だが、その心は騒がしい。


「また、あの時と同じ場所……!」


かつて彼が、大切な仲間を守れなかった“あの日”が再現されていた。

傷ついた仲間の姿。叫び声。砕け散る武器の音。


――“お前に仲間は救えない”という声が、森の奥から響いてくる。


「……うるせえよ。俺は……」


拳を強く握る。


「救えないかもしれない。でも、それでも一緒にいたいって思ってくれる仲間がいる。

だったら、俺は何度でも剣を振るう!」


その瞬間、幻影が砕け、まばゆい光がカイルを包む。


「“恐れ”を超えました」

無機質な声が空間に響き、彼の前に次の道が現れる。




翔太は、過去の自分と対峙し続けていた。

言葉の一つ一つが、まるで心の奥を抉るように重い。


「じゃあ訊くよ、今の君なら――もし、もう一度“葵”が選ばれる立場にあったとしたら、君はどうする?」


その問いに、翔太は静かに目を閉じた。

そして、ゆっくりと答える。


「……今の俺なら、“葵に選ばせる”。

俺は誰かの可能性を奪わない。その選択を、共に背負う。

一人で全部決めるなんて、もうしない」


その瞬間、空間が大きく揺らいだ。

幻影の“過去の自分”が崩れ、空間の壁が音もなく消えていく。


そして、ナナの声が聞こえる。


「選択は、共有することで意味を持ちます。翔太さん、あなたは“創造”から“共存”への第一歩を踏み出しました」


迷宮の奥、翔太の姿が再び仲間たちと合流する。


それぞれの心に刻まれた試練を乗り越えた者たちが、再び“運命”に立ち向かうために並び立つ。


翔太の顔には、迷いがない。


「……さあ、次は“終わり”だ」


彼らの歩みは、ついに最終決戦へと向かう。

お読みいただき、ありがとうございました。

この章「迷宮の記憶」では、翔太たちがそれぞれの内面に向き合う重要な転機が描かれました。


翔太は“過去の自分”という最も厳しい相手と対話し、かつての独善的な選択から「共に選ぶ」という新しい答えを導き出しました。

また、カイルもまた自らの弱さと向き合い、仲間の存在を支えに再び立ち上がる姿を見せてくれました。


選択とは、正しさではなく“誰と向き合い、どのように進むか”の問題である。

そうしたテーマが、少しずつ物語の中で形を成し始めています。


次章では、ガルドやリーシャもまた、自身の迷宮と対峙していくことになります。

そして翔太たちは、いよいよ最後の選別へ――どうぞ、引き続きお付き合いください。

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