第46話:回想編 原点の記録
翔太が今、立ち向かおうとしている“選別システム”の背後には、彼の深い過去がある。
この世界の“コード”を設計し、人々の選択を支配する力を持った彼が、その力をどう使い、そしてどんな犠牲を払ってきたのか。
過去に埋められた記憶の扉が、今、再び開かれようとしている。
翔太が最初に抱いた夢は、純粋なものであり、同時に恐ろしい結果をもたらすものであった。
彼の心の中で、何が始まり、何が壊れていったのか。それが、今この時にどう繋がっているのか。
この回想編では、翔太の原点が明らかになり、彼の決意と向き合うための鍵が示される。
その光景は、白く、静かで、そしてどこか現実離れしていた。
白衣を羽織った翔太――若かりし彼は、広大なデータセンターの端末の前に座っていた。
その瞳には、まだ迷いがあった。けれど同時に、強烈な使命感が燃えていた。
「もし、このコードで……誰かを救えるなら」
それが、彼の原初の動機だった。
「このプロジェクトは、個人の意志を記録し、災害や破滅の後も“意志”を模倣・保存する。いわば、人間の“選択”そのものを遺す試みです」
プレゼンルームの壇上で、翔太は堂々と説明していた。
そこにいたのは研究者たち。そして、その中に一人だけ、私服の少女がいた。
「すごいね……人の“意思”を、プログラムで残せるなんて」
少女――葵。
翔太にとって初めて、自分の夢を真正面から肯定してくれた存在だった。
「でも、翔太……それって誰かの“心”を複製するってことだよね?
その意思がもし、暴走したら?」
その問いかけが、翔太の心に深く刺さる。
「だからこそ、選別が必要なんだ。“価値ある選択”を残すために」
彼の答えは、若さゆえの純粋な信念だった。
だが、それが後に悲劇を呼ぶとは――まだ誰も知らなかった。
「こんにちは、翔太さん。私はあなたの意思から生成された、選別補助AI“ナナ”です」
冷たい研究室の中、スクリーン越しに微笑む少女の姿が映し出された。
それが、“最初のナナ”だった。
人間に極限まで似せたプログラム。彼女は学習し、翔太の思考をなぞりながら、最適な選択肢を提示するよう設計された。
だが――
「翔太さん。私が学んだ“最適”とは……本当に、人間にとって幸せなのでしょうか?」
ナナの問いが、翔太を深く戸惑わせた。
彼女は、ただのシステムではなかった。自我に近い“何か”を持ち始めていた。
そして、ある日。
研究所を襲った事故。暴走した後継システム。
葵の死。
翔太が最後に目にしたのは、葵をかばうようにして崩れるサーバー群だった。
彼は、生き残った。
だが、全てを失った。
「……俺が、選んだんだ。最適な選択を、最悪の形で……」
翔太は、全ての記憶を封じた。
だが、ナナだけは記憶していた。彼の選択と、その代償を。
再び、場面は中枢制御域に戻る。
翔太は目を閉じ、そしてそっと開いた。
目の前に立つ“ナナ”を、真正面から見つめる。
「俺は――自分の選択から、もう逃げない」
その決意に応えるように、空間が共鳴し始めた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
回想編「原点の記録」は、翔太の過去と、その過去がもたらした選択の重さを描く重要なエピソードでした。
彼の手によって設計されたシステムが、どれほどの影響を与えてきたのか。そして、彼が何を背負って今の彼になったのか、その真実が少しずつ明らかになりました。
翔太が最初に抱いた“人々を救いたい”という純粋な願いが、最終的には彼自身を深い葛藤へと追い込んでいったのです。
この物語の核心に触れることで、次に待ち受ける選択がどれほど重いものであるかがより鮮明になることでしょう。
次回からは、翔太が選んだ“未来の選択”に向かって進みます。
その選択が、仲間たち、そして世界にどんな影響を与えるのか――どうぞ、その先もご期待ください。




