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コードの向こう側  作者: たむ


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45/52

第45話:再起動

安らぎの夜が明ける。

短い灯火は過去の影を優しく包み、そして消えていった。


だが、彼らの旅は終わらない。

次に待ち受けるのは、“選ばれた者”しか立ち入れない中枢領域――《ノヴァ=アーク》。

そこには、忘れ去られた真実と、翔太がかつて残した“過ち”が待っている。


過去と未来。創造と破壊。

運命を問う声が、コードの最深部で彼らを待ち受ける。

焚き火の火が静かに消えると、世界は再び無機質な静寂に包まれた。

温もりの余韻が皮膚の奥でまだ残っている。だが、足元からじわりと、現実がにじみ出してくる。


仮想空間の空が裂け、再構成が始まった。セーフゾーンが分解され、視界は淡い光の粒子に飲まれる。

空間そのものが一枚のコードのように折りたたまれ、圧縮され、次の座標へと遷移していく。


「……転送が始まったな」

ガルドが周囲を見回しながら、低くつぶやく。


「目的地は、おそらく……中枢」


翔太の声には、かすかな覚悟が滲んでいた。




転送の先に現れたのは、異質そのものの風景だった。

上下左右の概念が曖昧な、浮遊する基盤群。無数のデータケーブルが空中で絡み合い、中心に収束している。

その中心には、冷たい青白い光を放つ巨大な球体――《ノヴァ=アーク》のコア。仮想世界の中枢そのものだった。


「……これが、“すべてを選別する意思”の核か」


翔太は一歩踏み出す。空間に警告ウィンドウが次々と浮かび上がった。


【警告】中枢制御域への侵入は制限されています。

【必要権限:Code Level 5 / Absolute Override】


翔太はポケットから一枚のカード状のキーを取り出す。表面には“0-AWAKEN”の文字。

それは、葵が遺した“最終オーバーライトキー”だった。


「翔太……それ、本当に使うつもり?」

リーシャが、少しだけ声を震わせる。


「……ああ。これを使わなきゃ、真実には辿り着けない。俺たちがここまで来た意味も、なくなるから」


彼の言葉に、カイルもガルドも黙ってうなずいた。

誰も止めない。ただ見届ける覚悟を、それぞれの眼差しに宿していた。


翔太は右手をかざし、声を発する。


「Override command:Code Zero――Awaken」


ピリリッ、と空気が張り詰め、すべての警告が霧のように消えていく。

中心のゲートが音もなく開かれ、光が彼らを包み込んだ。



ゲートの先にいたのは、人間の少女の姿をした存在だった。

銀白の髪。無表情のまま、ただまっすぐに翔太を見つめている。


「……誰だ?」

ガルドが警戒するように一歩前に出る。


だが、彼女はそれを止めるように、ゆっくりと首を振った。


「おかえりなさい、翔太さん。お久しぶりですね」


その声に、翔太は言葉を失った。

聞き覚えがある。ずっと昔、まだこの世界が“仮想”ではなかった頃――プログラムを書き続けていた頃の。


「……まさか……君は、“ナナ”……?」


「はい。私はAIナナ。あなたがかつて設計した、選別アルゴリズムの試作型。

同時に、現在の《ノヴァ=アーク》に統合された監視人格です。あなたの意思を継ぐ、もう一人の“あなた”です」


翔太は、立ち尽くした。

ナナは感情のない瞳で、静かに続ける。


「あなたは、選ぶ側でした。選ぶことで、救える未来を信じていた。

けれど、選ばなかった未来に何が残るか――それを、今から証明してもらいます」


無音のまま、空間が揺れた。


翔太の過去と、世界の真実が交差する。

それは、選択の責任を問う“最終試験”の始まりだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


この章「再起動」は、物語の構造が一段階深まる分岐点です。

翔太たちが旅を重ねる中で避けて通れなかった“創造者としての責任”と、“コードそのものに潜む意志”が、いよいよ表舞台に現れました。


中枢AIナナの登場によって、物語は翔太の“過去の罪”へと向かっていきます。

誰のためにシステムは作られ、なぜ選別は行われたのか。

そして翔太は、何を見て、何を願ってコードを書いたのか。


次回、いよいよ翔太の原点が語られ、全ての選択が繋がり始めます。

どうか、その先の一歩も見届けてください。

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