好きな子が妊娠した。
好きな子が妊娠した。
突然のことだった。そういえば最近「ウエストが……」とか言ってたのはそういうことだったのか。朝の静かなホームルームは急にうるさくなった。
そりゃそうだ。
ぼくが好きな子、ーーは、誰にでも優しく、明るい子だった。ぼくが彼女を好きになったのも、そんな彼女に助けられたからだった。彼女は、人を幸せにできる人だった。そんな彼女のことを、僕が幸せにしてあげたい。そう思っていた。
「これからも普通に学校くるんで、よろしくおねがいしまーす。」
彼女はそう言って隣の席に戻ってきた。ほとんど話したことがないぼくでも、さすがに聞きたくなっていた。何を、言葉を、
選んでいると、
「〜〜君!」
彼女が呼んできた。
「これから、色々おねがしちゃうと思うけど、よろしくね!」
お腹を撫でながらニコってする彼女が眩しくて、
「あぁ……もちろん」
というので精一杯だった。
それから、色々なことをおねがいされた。休んだ日のノートを見せて欲しい、荷物を持って欲しい、飲み物買ってきて欲しい……ほんと、いろいろ。
「僕じゃなくても、やってくれる人いるんじゃない?」
そう聞いてみても、
「まぁいいじゃん!いや?」
と聞き返されてしまう。彼女がいいならそれでいいけど。
彼女が変わったからと言って、生活自体が変わるわけじゃない。家に帰ったら、あいつがいる。母親のいない僕にとっては唯一の家族。
「おぉー。帰ったか。」
18差のクソおやじだ。最近妙に機嫌がいいのが余計うざい。
なんでか聞いたところで、
「まぁそのうちわかるさー。あ、今回はお前にとってもほんとにいい……」
どうせパチンコか競馬のことだ。ほんとクソ。
なんやかんやでもう一ヶ月半くらいそんな暮らしをしている。人は恐ろしいことに、どんなに意味のわからないことでも慣れてしまえばなんてことないみたいだ。もっと恐ろしいのは、慣れてしまっても、好きという気持ちは変わらないことだ。むしろ増している……とも思えた。だいぶ大きくなってきたお腹を撫でる彼女をみて、余計そう思った。
「いつもありがとうね!」
いつも通り、ニコッとする彼女が言ってきた。
「うん、気にしないで!」
気づけば話すことにも慣れていた。
「……ろそろいいかな……」
「どうかした?」
「ううん、なんでもない!」
今日も彼女は眩しかった。
翌日、家に帰るとあいつはいなかった。珍しい。いなくていいけど。しばらくすると、あいつが帰ってきた。
「なんだよ。居ないなら居ないっていえよ。」
そう吐き捨てる振り返る。そこには、
あいつとーーが居た。
え?
よくわからなかった。あの時以上に。
「〜〜。おまえの新しいお母さんだ。」
は?
「サプライズ最高だね!」
未成年に手を出して……
妊娠させて……
本当にクソじゃねぇか
「すでに学校でも仲良くしてると思うが、まぁそういうことだ。」
どうゆうことだよ……
「これからも守ってくれ。」
おめぇのためじゃねぇよ
もうわけわかんなかった。
「ちょっと2人にして話させてくれ。」
そういうと、クソは笑顔で出ていった。帰ってくんな。
……
彼女は黙っていた。
俺の知らない、母親のような瞳で俺を見つめながら。
「……わかっていたのか?」
「そうだよ!」
ニコッと彼女が輝く。
「驚いた?」
「…あぁ。」
「よかったぁ。嫌われたらどうしようかと思ってたから!」
嫌あるわけがない
「どうして?」
「母親になりたかったの。誰より早く。」
はは……
もういいや。彼女らしいし。
「あいつのことはどう思うの?」
「いい人じゃない。私をお母さんにしてくれるんだし。」
「そっか。」
それを世間はクソと呼ぶんだよ、俺含め。
「そろそろいいかー?」
帰ってきやがった。
「いやぁ、よかったな!お母さんができて!」
何言ってんだよ
本当の母さんも18なんて若さで俺産んだから死んじゃったんだろうが
こいつはなんも学んでなかった。
もう無理だ。
「………〜〜!」
なんかいってやがる
「……ろ〜〜!」
なんだよ
「やめろ〜〜!」
は?
何言ってんだこいつ。
そういえばなんか寒いな……。
気づくと俺は、くそをベランダから落とそうとしていた。
「やめろ!何してんだ!」
うるさいなこいつ
「何が気に食わないんだ」
全部だよ
もういいや
最後の一押しをする。
ダァン!
下の方で鈍い音がした。
部屋に戻る。
「どうすんの?これから。」
いつも通り、お腹を撫でながら、彼女は聞いてきた。
どうする……
浮かんできた答えは一つだった。
僕が望むのは……
「幸せにするよ」
眩しいお母さんに、僕は言った。
お読みいただきありがとうございました。




